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女好きオカルト探偵と賞金稼ぎくの一

「おい」
「何でしょう?」
「いい加減放さないと、その自慢の顔に右ストレート入れるぞ」
弱弱しいながらも凄みをきかせて脅されたヴィンセントは、やれやれと言わんばかりの表情で溜息をつき、ユフィの体に後ろから回していた腕を解いた。
ようやく解放されたユフィは、そのまま後ろに倒れこんだ。
そして、彼女は恨めしそうにベッドの端に座りこんだ彼をギロリと睨む。
「お前、アタシが乗り物に弱いの知ってんだろ?
 ゆっくり休ませてやろうって気はないのか?」





二人は、飛空挺ハイウインド号内のユフィの部屋にいた。
ユフィはクラウドと同じく、乗り物にとても弱い。
長年一人で戦い続けた彼女も、どうやら乗り物酔いだけには勝てないらしい。
先程もデッキでへばっていた所をヴィンセントに助けられ、ようやく自分のベッドまで戻ってきたばかりだ。
しかし、帰ってきたとたんにヴィンセントがきつく抱きしめるのだから、早く休みたいユフィにしてみれば迷惑この上ない。
早く帰れという念を込めて睨みつけているのだが、ヴィンセントはそれを無視し続けている。
そればかりか、彼女に優しく微笑みかけながら上機嫌に語った。
「大人しく抱かせてもらえるのはこんな時くらいですからね」
ユフィはこの微笑が苦手だった。
長年お尋ね者だった彼女に、このような優しい笑みを向けるのはごく僅かな人物のみである。
しかも、憎まれ口を叩いてはいるが一応彼女とヴィンセントは恋仲なのだ。
その笑みがどことなくむず痒くて、ユフィは落ち着いていられない。
彼も彼女がそのように感じているのは分かっているようで、こうしてしまえば彼女が黙ってしまうことも知っている。
そして、そこが可愛らしいと密かに思っていた。
もっとも、本人にそう言おうものならきっと照れ隠しの右ストレートが飛んでくるに違いない。




「それにしても一向に良くなりませんね、乗り物酔い。
 普通はだんだん慣れてくると思うんですが…」
まじまじと彼女を見ながらヴィンセントが呟けば、その様子にユフィの眉間にあった皺が深くなった。
「うるさいな、治んないんだから仕方ないだろ」
「三半規管が弱いんですか?」
「?
 何だよそれ」
「体にある組織の一つなんですけど…。
 ほら、体をグルグル回していると気持ち悪くなってくるでしょう?
 そうなるのが早いとそこが弱いらしいですよ」
「へぇ」
そんなことを試してみたことは一度もないのだが、ユフィはそこが弱いのだろうと思うことにした。
こう見えても、ヴィンセントは結構な博識である。
ただ、彼は20年以上棺桶の中で眠らされていたこともあり、現代の事情については追いつけていない部分があるのだが。
そんな博識の彼は「そういえば」と言いながら手を叩いた。

「酔い難くなる方法、いくつか知っていますよ」

突然の言葉に、ユフィは横たわらせた上半身を勢い良く起き上がらせた。
「何!?
 お前、そんなこと知ってて今まで黙ってたのか!!」
「だって、誰かさんはいつも早々に部屋から追い出しますから」
「う…」
盛大に呆れてみせたヴィンセントに言い返す言葉が見つからない。
言葉に詰まったユフィを見て彼は小さく笑った。
「教えてあげましょうか?」
「当たり前だろうが」
彼女はムスッとしながら答えた。



「一つは目を閉じれば良いだけです。
 簡単でしょう?」
「………」
「…信じられないって顔してますね」
露骨に疑いの目を向けるユフィにヴィンセントは苦笑した。
「まぁ、これは飛空挺でやっても仕方ないかもしれませんね。
 自動車に乗ったときの方が役に立ちます」
「なら言うな」
ぴしゃりと言い放ったユフィの言葉にまた苦笑する。
目の前のユフィの顔は不機嫌そのものである。
「二つ目は酔うことを忘れることです」
「そんなことやれるもんならやってらぁ!」
豪快にベッドの上に体を投げ出しながら、ユフィは声の限り叫んだ。
ベッドは激しく揺れ、端の方に座っているヴィンセントの身体も少し跳ね上がった。
説明の仕方に悩み、しばしヴィンセントは頭を抱える。
「簡単に忘れられる事じゃないのは分かってますよ。
 要はその事を意識しなければ良いんです」
「意識しない?」
そういえば、とユフィは記憶をたどる。
前にも乗り物酔いで気分が悪かった時、クラウドに緊張したり体を動かすと酔わない、と言われたことがある。
実践してみたがやはり酔ってしまい、その日は一日機嫌も具合も悪かった。
「それは無理だ。
 一回やってみたけど全然効かない」
「そうでしょうか?」
ヴィンセントの確信を持った言葉に、ユフィは倒していた上半身を再び起き上がらせた。
「…自信あるのか?」
「目の前のあなたを見ていれば、自然と持てますよ」
何言ってるんだと言い返そうとした時、彼女はふと気がついた。
さっきまであれほど酷かった酔いが、いつの間にか軽くなっているのだ。
この部屋に運ばれてくる間、水は飲んだが薬は飲んでいない。

と、いうことは。

「ご実感して頂けたでしょうか?」
一国の姫君に挨拶としてやるような恭しい礼をしてから、ヴィンセントはまたユフィに微笑みかけた。
してやられたと気がついた彼女はそっぽを向いて答える。
「まぁな」
しばらくヴィンセントはニコニコしながら彼女を見つめていた。
そして、彼はその笑顔のまま突然告げた。

「ただ、私の治療費は安くないですよ」





さっきのしてやられた感に続く二度目の衝撃がユフィを襲った。
金銭絡みの話に対して、ユフィは非常にうるさい。
それは彼女の故郷の事情によるものだが、その問題が解決された今も彼女のこの癖は改善されていない。
ユフィは慌ててヴィンセントに食い下がる。
「何!?
 何でそんな大事なこと後から言うんだよ!!」
「先に言ったら追い出されますからね」
一瞬でも彼に感謝したことに後悔しつつ、ユフィは落胆した。
先手を打たれたとなってはもう取り返しがつかないのだから、納得はしないが相手の条件を飲むしかないだろう。
「…分かった、いくら?」
「別にお金が欲しいわけじゃないんですが…」
「は?」
訳の分からない言葉に、ユフィは気の抜けた返事を返した。
ヴィンセントはまだニコニコしたままであり、その笑みは何かを企んでいるようにも見える。

「目、閉じてもらっても良いですか?」

これまたユフィにとっては不可解な言葉だったが、渋々目を閉じた。
視界から目の前の笑顔が消える。
しばらくすると、スッと頬に感覚が走った。
暖かい感覚がそこに留まり、ユフィがその正体を探っていた時だった。





唇に、痺れる感覚が走った。





驚いて目を見開くと、そこには見慣れた顔が近距離にあった。
頬に置かれていたのはヴィンセントの手で、唇に触れているのは……間違いなく、彼の唇だった。
数秒経ってから少し名残惜しそうに唇を離した彼は、例の微笑を彼女に向けながら言った。
「治療費はこんなものでしょうか」
ユフィはあまりにも唐突な出来事に、しばらく口をパクパクさせた。
そして、ようやく言葉が出るようになった彼女は最初の一言をひねり出した。

「今すぐ出てけ、この好色家!!」

そう叫んで、手元にあった枕をヴィンセントに向かって投げつけた。







結局、その後ユフィがヴィンセントの元へ通うことはなかったため、彼女の乗り物酔いは一向に改善されなかった。

***

昔書いたもののリライト版(サルベージとも言う)
アルティマニアオメガ購入記念に、FF7初期設定を使用して制作。
そこで言及されていない点については本編と同じ設定。
ヴィンセントさん限りなく変態で書いてて楽しかった覚えがある←

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