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別れの言葉

ついに、繰り返されてきた神々の闘争も終焉を迎えた。
それと同時に、私たちに残された時間が尽き果てようとしていた。
このときが訪れることを何よりも願っていた。
そのはずなのだが。
何故、これほどまで胸が締め付けられるのだろう?







いつ頃からだろう、彼の視線に気がついたのは。
彼と接しているうちに、私に対して仲間以上の感情を抱いていることに薄々気がついた。
その想いに気づいていながら何もしなかった私は、今思えば残酷だったかもしれない。
いや、残酷というより卑怯だったのだ。
気がつかない振りをしていれば、彼も私もこのまま「仲間」でいられる。
何も無理に問いただす必要はないし、言いたければ実直な彼のことだからすぐにでも言うはずだ。
それに私はこの世界を救うと神に誓ったのだ、色恋に現を抜かす暇など生憎持ち合わせていない。
そう自分に言い聞かせ、彼の想いを忘れようとした。

そうしようとすればするほど、彼のことを思い返してしまうのに。




混沌の神がいた荒れ果てた灼熱の地と打って変わり、目の前には輝かしいばかりの美しい景色が広がる。
舞い上がる花弁は甘い香りを運び、まるで神々の闘いが終わったことを祝福している気がした。
その光景に、今まで張り詰めていた気が緩んだ。
「すべて終わったのだな」
今はもういない神に、そして自分に言い聞かせるように噛み締めた一言。
調和の神に仕えた我々の役目は、ついに終わったのだ。
そしてそのことは即ち、決別を意味した。
「大丈夫」
ティーダの声に振り向く。
淡い光に包まれた彼は、今にも消えてしまいそうだった。
「この先はクリスタルが導いてくれる。
 それに、俺はここにいるから」
いつもと変わらぬ明るさで別れを告げた彼は、フッと舞って消えていった。
それを引き金にジタン、スコール、クラウド、ティナ、バッツ、セシル、オニオンナイトと、次々光に包まれて消えていく。
そして、ついに彼と私だけがそこに残された。
と言っても、彼の手は徐々に光に包まれていて、先に還っていった皆と同じように消えてしまうのもすぐだろう。
そんな彼を、最後までその想いに気づかぬ振りをしたまま、仲間として見送るのだ。
だから苦しい胸よ、もう少しだけ耐えてくれないか。
あと数分、せめて彼がいなくなるまで。



気づいていた想いを伝えなかったのは、この距離が堪らなく愛おしかったから。

必死に守ろうとしたそれは、もう意味のないものになろうとしているのに。

もし今許されるなら、彼を抱きしめてしまいたかった。



ああ、私はいつからこれほどまで臆病者になったのだろう。






光の気配が色濃くなったのを感じた。
別れが近いことを感じ、彼のほうを向き直すと、琥珀色の瞳から静かに雫を零す姿が目に映った。
「…フリオニール?」
「……ごめん」
そう掠れた声で言って、彼は光で霞む手で目元を拭う。
先ほどは手先だけだった光は、下半身をも包み込んで喉元へと迫っている。
いてもたってもいられず、彼に近づき、頬に手を添える。

そこにいるはずの彼は、幻のようで。

私の手は確かにそこに触れているはずなのに、それすら嘘のようだ。
添えた手を離したら二度と触れられなくなりそうで、そのまま指を滑らせて彼の目元を拭う。
涙を拭った指先が、少しだけ濡れた。
彼を包む光は頬まで差し掛かり、いよいよ残された時間が僅かであることを知る。
胸を締め付ける感覚が私を急き立てる。
今からでも遅くはないだろうか?
もしまだ間に合うのなら、想いを伝えることを許してくれないか?
「…ウォーリア」
今まで私を呼ぶ声とは違う声で、彼は私を呼んだ。
彼はもう、光に包まれてしまっている。
仲間のまま別れようと思っていたが、それももう叶わぬ思いだ。
締め付けられた胸は、それを跳ね除けるように私を突き動かす。








そして、言葉を紡ごうとした彼の唇を、自分のそれで塞いだ。








消え行く彼に落とした口付けは、焦がれていた光にしたようで。
唇を離すと目を丸くしてこちらを見る彼。
その姿が酷く愛しい。

「あーあ」

まるで仕掛けようとした悪戯がばれた時のような、そんな軽い落胆の声。
苦笑した彼は相変わらず涙を流していたが、その顔はどことなく晴れやかだった。
「もっと早く言えばよかったなぁ」
軽い口調で紡がれた後悔の言葉の後、彼を包む光が一瞬強くなり、スッと風と共に舞っていった。

それが酷く美しかったものだから。
頬を何かが伝ったような気がしたが、すぐに風が攫って行ってしまった。



光となって還っていった仲間達。
そして、彼。
何も残っていなかった私に、様々なものを与えてくれてありがとう。
例えどれだけ離れても、どこかで繋がっていると信じているから。

「光は、我らとともにある」





私は、これからも歩いていける。

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