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チョコレィトの行方

貴方に喜んでもらいたいとか、そんな気持ちよりも。
貴方に届けたい、これだけ。






「何やってるんだ、俺」
気付けば綺麗にラッピングされた箱を片手に持っていた。
中身はもちろん、この時期恒例の茶色くて甘いアレ。
当然、お手製である。
我ながら良くやったものだと箱をまじまじと見ながら思い、そしてため息。
作ったフリオニールには、それを贈るべき相手がよく分かる。
だからこそ、ため息の一つや二つ出さずにいられないのだ。
せっかく作ったのだし、自分で食べるのも虚しいからと、自身を奮い立たせ箱を手に歩く。
目指す場所は、思い焦がれる彼の元である。



彼――もといウォーリア・オブ・ライトはコスモス陣営をまとめる良きリーダーだ。
仲間からの信頼も厚く、厳しさの中に優しさを持ったこの青年に、フリオニールは密かに想いを寄せていた。
今回の贈り物もそんな気持ちから生まれたものであるが、渡すのにはやはり気が引けた。
それなので、さりげなく彼の様子を伺ってからどうするか決めてもいいだろうとフリオニールは思っていた。
幸い、仲間の中にはこういったイベントが好きな者が何人かいる。
きっと彼のことだから、そんな仲間達からチョコなら快く受け取っているだろう。
そう考えると気分は楽になったが、少し寂しくなった。




仲間達から離れたところに、ウォーリアは佇んでいた。
こちらの気配に気がついた彼は、フリオニールの方を見る。
「どうした?」
何気ない一言ではあったが、フリオニールを緊張させるには十分すぎる一言だった。
それに、いざ二人きりで話そうとすると、どうしても落ち着かない。
手元の箱は背で隠しつつ、彼は目の前の想い人に問う。
「あ、あのさ、ウォーリアはもうチョコ貰ったのか?」
質問をしてから、しまったと思った。
ウォーリアは、そういう俗物的なものとは一切かけ離れた雰囲気を持っていた。
そんな相手にチョコがどうこう尋ねるのがあまりに不毛であることに、尋ねてから気がついてしまったのだ。
慌てて謝ろうとしたフリオニールだが、その前にウォーリアが意外にも真面目な口調で答えた。

「チョコレートは本命の相手のものだけ受け取ろうと思っているんだ。
 だから、まだもらっていない」

意外な一言にフリオニールは驚いた。
同時に、後ろ手で持っていた箱を強く握り締める。
先ほどの一言から、彼は仲間からのチョコすら受け取っていないこと、彼が想いを寄せる誰かがいることを察するのは容易だ。
仲間からももらっていないということは、今隠しているこの箱も彼は受け取ってくれないだろう。
それに、彼の想い人と聞いて一番初めに思いついたのは、あの儚げな女神の姿だった。
悲しい気持ちに包まれたが、それを隠してフリオニールは微笑んだ。
「そっか」
「…君は何か用があったんじゃないのか?」
「いや、それが聞きたかっただけ」
無理に繕った笑顔を纏い、明るく答えるよう努める。
しかし、実際は今にも泣いてしまいそうで、それを見られまいとフリオニールが別れを告げようとしたときだった。


「それで」


言葉を差し込んだウォーリアは優しく微笑んだ。
そして、目の前の青年に問いかける。





「君は何故その箱をくれないのかな、フリオニール?」





その言葉を聴いてようやく、フリオニールは彼の本命の相手を理解した。
そして、顔を真っ赤にした彼は、隠し持っていた箱をようやく手渡したのだった。

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