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叶わぬ願いを君に告げる

皆がクリスタルを手に入れて、コスモスがオレたちの目の前で消えてしまって。
世界を救うための旅の途中、何度も消えそうになったオレたちにクラウドは嘘をついた。
オレたちは消えるんじゃなくて、元いた場所に「還る」のだと。
皆その嘘を信じているけど、オレは違う。
オレは、その嘘が怖くて仕方がない。

…オレが還る場所は、一体何処なのだろう?








夜、見張りの順番が回ってきたオレは、火をじっと見つめたままうずくまる。
前までは、こうして見張りをしていてもうたた寝をしてしまうことがあって、一度ライトにそれを見られてかなり怒られた。
でもここ数日は違う、逆に眠るのが億劫なくらいだ。
――クラウドがあんな嘘をついた日から、夜が明けないことを恐れている。



「…どうしたんだ、顔色が良くないぞ?」
いきなりかけられた声にドキリとする。
オレより低いけど優しげで、とても大好きな声。
だけど、今は聞きたくなかったな…。
「フリオ…」
横目で声の主を確認する。
仲間想いの彼は、少し当惑した表情をしていた。
「具合が悪いようなら代わろうか?」
「いや、良いっス。
 別に具合悪いわけじゃないし」
具合が悪くないのは本当だ。
だけど、フリオはそれを分かってくれない。
「そうは言っても、ここのところまともに寝てないようじゃないか。
 疲れが出てるんじゃないのか?」
ほら、そういうどうでもいいことまで良く見てる。
そんな優しい彼だからこそ、オレはどこか甘えているところがあって。
押さえ込めばいいだけの本音をさらりと零す。
「…眠れないだけッス」
「何故?」
やっぱり、反応すると思った。
フリオはオレのすぐ隣に来て、そこに腰を下ろす。
優しい彼は、仲間の異常に反応せずにはいられない。
でも、これからオレがする話は結構重い話。
…それを分かって聞き返すのかな?
「前にクラウドが言ったこと、覚えてる?」
「ああ…、俺たちは消えるんじゃなくて還るっていう…?」
「オレ、それが嫌なんスよ。
 そうなるんじゃないかって考えただけで、すごく不安になる」
「?
 どうして…」




「オレが還るべき場所に、オレはいられないかもしれないから」




彼が目を開いて驚く様子が見えた。
無理もない、オレ自身もそう思う理由がよく分からないのだ。
「何でそう思うんだ?」
なおも聞こうとする彼は、一体何を思っているのだろう。
膝を抱きしめている手の力が、少しだけ強くなった。
「全部、あやふやなんスよ。
 誰かと旅をした記憶もぼんやりあるッスけど、ブリッツボールの選手なのに長期で旅するなんておかしいし。
 それにブリッツボールの選手なのは覚えてるけど、活躍してたときのことがはっきり思い出せないし。
 何か、全部夢みたいで、すっごくモヤモヤしてるっス」
「それはオレも同じだ!
 それにあの時、お前だってそんな否定的なこと言ってなかったじゃないか」
「フリオとは…いや、皆とも違うっス。
 確かにクラウドがああ言った時は、嘘でも信じたいって思った。
 だけど、オレが還る場所のことを考えたら………ホントはオレなんてどこにもいないんじゃないかと思って」
「……お前には親父さんがいるじゃないか。
 だからそんなこと…」
「親父もそうっス。
 親子揃って、よく考えたらあやふやなことが多すぎるっス」
だから怖いんだ。
聞こえるかどうかも怪しい声で呟いた言葉は、彼の耳に届いただろうか。
喋っているうちに泣きたくなってきて、顔を膝に押し当てていた。
彼の表情を窺うはできないが、きっと困った顔をしているに違いない。
しかし、自分でもよく分かっていなくても、何故か自分が消えてしまうイメージが頭から離れない。
だから余計に怖く思うのだ。




あやふやなことが普通だと思っていた。
フリオも、一緒に旅したセシルやクラウド、それに他の皆もあやふやな記憶しか持っていない。
ライトに至っては、この世界に来る前の記憶すらないのだ。
だから、自分の記憶の曖昧さを今まで意識することがなかった。
でも今は違う。
皆は地に足が着いているように、その記憶もあやふやながらしっかりしているのだ。
例えば、クラウドは自分の剣を大事なものだと言い、時々フリオを懐かしむように見ている。
きっと、元いた世界の誰かと重ね合わせているんだろう。
フリオも、戦っている時に誰かがピンチになると決まって庇おうとする。
寝ているときも時々うなされてたりするから、仲間のことで辛い思いをしたのではないだろうか。
それに引き換えて、オレは親父とブリッツボール以外ほとんど何も覚えていない。
その二つすら曖昧なのだから、オレはオレ自身が疑わしくて仕方ないのだ。






例えるなら、オレは誰かが見ている夢のようで。






フッと頭に重みがかかった。
それがゆっくり動くのを感じて、隣に座っている彼に撫でられていると理解する。
「心配することはないさ」
ゆっくり、言い聞かせるような優しい声。
彼は今、どんな顔をしてるのだろう。

「俺は…覚えてるから」

そう言って軽くポンと頭を叩かれた。
その瞬間、我慢していた涙がボロボロ流れていく。
俯いているから泣き顔を見られずに済んだけど、泣いてしまったことはばれてしまった様で。
しばらくゆっくり優しく、一定のリズムで彼はオレの頭を叩き続けた。
涙も引いてきて、ようやく落ち着いてきた頃、頭を叩いていた手は乱暴に髪を乱して離れていった。
「だから、あんまり考えすぎるなよ?
 ただでさえ考えるの苦手なくせに」
「最後の一言は余計っス」
いつものやりとりに安心したのか、彼は「じゃあな」と言って立ち上がった。






なぁ、アンタはどうしてオレが泣いたのか分かる?
安心したのでも、怖いのを我慢してたからでも、嬉しかったからでも何でもなくて。
その一言が、とても悲しかったんだ。



知ってる?
夢はどんなに覚えていても、いつかは忘れて、あやふやになっていくんだ。
遠ざかる彼の気配を感じながら、オレは絶対に叶うはずのない願いを呟いた。

「オレは、フリオと一緒に還りたい」






そうしたら、アンタはずっと、オレのこと覚えててくれるだろ…?

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