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Le commencement

とある住宅街の一角、街が見渡せる景色がいい丘の上。
草木のツタが絡まる、少し古くて、それでもどこか趣がある洋風の小さな家。
そこが、彼らの働くカフェである。






この店に決まって一番にやってくるのは、銀髪のまだ若いコックだ。
朝早く店に着た彼は、急いで着替えてからまっすぐ厨房に向かってメニューを開く。
「さて、今日の日替わりメニューはどうしようか」
昨日までに出したメニューを思い浮かべながら、頭の中で料理を始める。
それが出来上がるころ、彼は手を動かして頭の中のメニューを再構築する。



おいしそうな匂いが漂う店内に、ドアにつけたベルが澄んだ音を響かせる。
シルバーブルーの長めの髪の毛を後ろで縛り、レンズが細い眼鏡をかけた青年は、店内に満ちる香りを感じて微笑んだ。
荷物をカウンターに置いて、厨房にいる料理に夢中なコックの元へ。
「…今日は何を作っているんだ?」
「あ、おはよう。
 今日はカルボナーラにしようかと思うんだ」
「デザートは?」
「考え中」
そんな他愛もない会話を交わしている間にも、手元の料理は出来上がっていく。
まるで魔法のようだ、と青年はいつも思っていた。
綺麗に盛り付けされた皿を手渡され、改めて彼の仕事ぶりに惚れ惚れする。
「こんなもんか」
「食べさせてくれないのか」
微笑みながらそんな冗談をもらせば、目の前の彼はみるみる顔を赤くした。


ちょっとしたことでも大げさに反応してくれるから、彼をからかうのはやめられない。


「だッ……、どうして!?」
「冗談だ」
「またか!」
不機嫌そうに目をそらしてむくれる姿がなんとも可愛らしい。
こういう部分を見ると、まだ彼は子供なのだと思う。
歳の割りに大人びて見えるし、料理の腕も未熟ながら立派なものだが、彼は去年まで学生だったのだ。
そんなコックを尻目に、手渡された料理を口に運ぶ。
まろやかで濃厚なクリームに卵が絡まっており、胡椒がその味を絶妙に引き立てる。
「で、味は?」
「申し分ない」
「そっか、それなら良かった」
「これだと、デザートはあまり甘くないものの方がいいかもしれない」
「分かった」
そう答え、コックは開いたメニューと再びにらめっこ。
真剣な眼差しでメニューを思案し始めた彼を青年はしばらく眺めていたが、それに飽きたのかフォークでパスタを一口にまとめた。
そして、それをコックに差し出して一言。
「…食べないのか?」
「~~~~!!
 だから自分で食べますッ!!」
これだから、やめられない。





しばらくデザートを作るコックとの会話を楽しんだ青年も、自分の持ち場へ戻る。
黒のギャルソンを巻き、ベストを羽織ってネクタイを締める。
そして、カウンターのコーヒー豆を補充し、紅茶の茶葉を並べる。
それが終わると、エスプレッソマシンやコーヒーグラインダーなどを丹念にチェックしはじめる。
青年はこの店の店主であり、バリスタであった。



開店時刻が近くなってきた頃、コックが小さな皿を一つ運んできた。
「…プディング?」
「そうそう、焼きプディング。
 ブランデーをちょっと多くしたから、見た目ほど甘くないぞ」
一口頬張ると、確かに甘みを抑えたカスタードの味がじんわりと広がった。
その味を楽しみながら、青年は共に出す紅茶を思案する。
「これなら、ディンブラが良く合う」
「ん。
 これで今日の日替わりメニュー完成だな」
「さっそく看板に書くか」
できたばかりのメニューを、黒板を模した看板に書き足す。
青年の文字は美しく、どこか清楚な雰囲気を漂わせる。
コックは、自分の作ったメニューの名前が書かれるこの瞬間がとても好きだった。
彼が書いた文字は、たちまち自身の料理を輝かせてくれているように思う。
「さて、これでいい。
 時間もそろそろだな」
「ああ。
 今日も頑張ろうな、ウォーリア」
「こちらこそ、フリオニール」
2人の従業員しかいない小さなカフェは、今日も静かに営業を始める。








―――Cafe Cosmos、それが彼らの小さなお城の名前。
ひっそり佇むその店に、今日はどんな人が訪れるのだろう?

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