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「フリオニール」
明日の準備の途中、いつもの調子で呼ぶ声。
振り向いたら、軽く口付けされた。
突然のことにコックは身を強張らせた。
そもそも、店主とはそんな関係でもないのにどうしてこんなことに…。
回らない頭で考えている内に、優しいキスは奪うようなそれに変わる。
「ん、…ふ……」
なんで。
どうして。
答えが出るはずもない問いを頭の中で繰り返す。
ようやく唇が離れて、店主と目が合う。
いつものように「冗談だ」で片付けてしまうのだろうとどこかで思っていた。
しかし、彼の視線はそれを言うことすらしないような真剣なものだ。
そのことが、余計にコックの頭を混乱させる。
「なんで、こんなこと…」
ようやく口をついて出た疑問。
目の前の店主は、意地悪く笑った。
「君があまりにもおいしそうだったから、な」
そう言ってぺろり、と頬を舐められた。
改めて自分の姿を確認したコックは驚いた。
いつの間にか自分の体のあちこちに生クリームがかかっているのだ。
一体いつこぼしたんだ、と思ったが、あの時かと何となく納得する。
ぼんやりとそんなことを考えている間に、するりとスカーフが外された。
そして服を勢いよく肌蹴させられる。
そのあちこちにクリームが飛び散っており、やや褐色の肌を汚していた。
自分の体だというのにどこか卑猥に見えて、コックは目を逸らす。
「今日の賄いは君、だな」
店主はコックの耳元で囁き、そのまま喉元に
「やめてくれ…ってああああ夢か!
何だ夢かははははは、夢でよかったー!!!」
「朝からうるさいよフリオニール!!」
悪い夢を見た、早く忘れてしまおう。
そう思いながら、コックは洗面所へ向かった。
それとほぼ同時刻。
「……これは、使えるんじゃないか…?」
ベッドの上で腕を組みながら、店主はぼそりと呟いた。
コックの受難は、まだ続きそうである。
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