忍者ブログ

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

遅すぎた初恋

この頃なんか変だ。
うん、間違いない、絶対におかしい。
しかし、これはどう例えるべきなのだろうか?
当てはまる言葉が思いつかない。





「最近よくボーっとしてるッスね。
 何かあったんスか?」
この一言で初めてぼんやりしていたことに気がつくのだから、重症もいいところだ。
いくら仲間の前とはいえ、ここは戦場だ。
気を抜いていては、突然現れた敵に対応できなくなる。
それなのに、そのことをあまり戦闘慣れしていないティーダに指摘される有様だ。
我ながらとても情けない。
何でもないと返せば、あまり無理するなとか、言いたくなったらいつでも聞くとか、たくさんの言葉を畳み掛けるように言われてしまった。
…本当に重症のようだ、少なくともそこまで心配されるほどには。




ここに来る前の記憶が曖昧なのは、ここにいる全員に共通して言えることらしい。
俺もその例外でなく、思い出せることの範囲がとても狭い。
皇帝の支配する世界で戦っていた記憶はある、顔は曖昧だが共に戦った仲間もいるし、激しい戦いの中落ちていった命も覚えている。
どういうわけか女性相手に緊張するのは、無意識ながら体が覚えてるというところだろうか。
戦闘に関する知識や技術もそのようなものであるようで、戦いが激化するほどそれらは鮮明に蘇った。
ただ、その頃以外の記憶となると、急に何も言えなくなる。
幼い頃に両親が亡くなってしまったこと以外は、どうもうまく思い出すことが出来ないのだ。
だから、現在の状態に対して言い当てられる言葉や状況が思いつかない。
ただ、原因の検討くらいはついている。
おそらく、彼だ。



目に焼きついて離れない光景がある。
敵に夢の象徴を奪われ、追いかけたものの危機に瀕していたときだった。
「フリオニール!」
力強く、俺を呼ぶ声。
気がつけば、目の前には淡い黄色をした見慣れたマントが舞っていた。
あの時は、どうして彼がここにいるんだろうと思う以前に、あまりに出来すぎた光景に驚いていた。
仲間のピンチに颯爽と駆けつけた彼は、さながら本当の騎士のようで。
その姿が嫌味でもなんでもなく、絵画を連続して見ているようだった。
その出来事はほんの数秒で終わってしまったはずなのに、いつまでも頭から離れない。
そして、そこへ更に追い討ちをかけるのは、その後の彼の一言だ。




あの後、助けてもらったことに礼を言っていないことに気がつき、皆から離れて鍛錬中だった彼の元へと向かった。
鍛錬の途中だというのに、彼は手を止めて俺の話を聞いてくれた。
あの時は助けてくれてありがとう、俺も貴方を支えられるようになりたい。
要約すればそんな感じのことを言ったような気がする。
持ち前のポーカーフェイスを崩さずに黙ってそれを聞いていた彼は、開口一番に飄々と言ってのけた。


「君が大切だからな、無事でいてくれて良かった」


顔に熱が一気に集中するのを感じた。
きっと俺が彼の立場だったとしても、似たようなことを言うだろう。
しかし、何故か顔から熱が引かない。
これは一体どういうことだ?
結局会話にすらならないような言葉を慌てて並べて、その場を走り去ってしまった。
どう考えてもおかしい、明らかに不審者だ。
制止する彼の声が聞こえたような気がしたが、気のせいだと思い込むことにした。





あれから、どうしても彼に近づくのが怖い。
様子こそ伺うものの、話したりすることはおろか、近くに立っているだけでも落ち着かない。
そんな状態で彼の前にいては、更に不審に思うのではないか?
そんなどうでもいいはずのことがとても恐ろしく思えて、どうしても彼に近づけない。
しかし、このままでいいはずもなく、どうしたものかと頭を抱えていた。
そんな時だった。
「…フリオニール、少しいいか?」
…本当に重症だ、どうして今の今まで彼が近くに来ていたことに気がつかなかった?
声をかけられてから、自分の不甲斐なさともう逃げ道がないという事実に小さく溜息が出た。
「どうしたんだ?」
なるべく目を見ずに話す。
こうしている間にも顔に熱が集まって、心臓がばくばくと煩く鳴り響く。
それが表に出ていないか気になって仕方がなかった。
たっぷり間が空いて、ようやく彼は口を開いた。

「やはり、君は私を避けているな」

「……はい?」
避けている、という言葉に一瞬眩暈がした。
しかし、彼に近づかないようにしていたことは事実で、それは傍から見れば避けているようにも見えるのだろう。
それが例え、自覚がなかったとしても、だ。
「え、いや、その…」
「…私は君に何かしただろうか?」
「いや、そんなことは…!」
「では何故?」
何故、と聞かれても理由なんてこちらが聞きたいくらいだ。
明確な答えは、見えそうな場所まであることは感じていた。
ただ、決定的な何かが足りない。
困り果てて、チラリと彼を盗み見た。
目の前の彼はいつものポーカーフェイスではなく、どこか悲しげだった。
「あ、あの」
答えは分からないが、それでもちゃんと伝えることは伝えるべきだと思った。
またおかしなことを言わないよう、ゆっくりとだけど。
「貴方のことは嫌いじゃない。
 だけど、貴方が近くにいるとどうしても落ち着かないっていうか、おかしくなるっていうか…」
「…おかしく?」
「あ!
 で、でも大したことじゃないんだ、本当に!
 ただ何て言ったらいいのか………本当にすまない」
…これでも落ち着いて話せた方だったが、目の前の相手の顔はどうも険しくなっていて。
こんな答えにもならないことを言われれば、本当に嫌で避けていたと思われても仕方ないかもしれない。
沈んでいく思考のように、顔もどんどん俯いていく。
不意に、彼が手を伸ばして頬に触れた。
その手が目元を擦る。
「…どうして君が泣くんだ?」
「!?」
頬に触れた手が暖かいことと、いつの間にか出ていた涙に驚いた。
ひっこめと念じても涙はそのまま溢れてきて、何がなんだかさっぱり分からない。
「ごめん、本当にごめん」
俺はただ謝ることしかできなかった。
ひたすらそう呟いたって仕方がないと分かってたけど、その言葉しか出てこなかった。
スッと頬から暖かさが引いた。
驚いて見つめ返した先には、辛そうな顔をした彼がいた。
ああ、本当はそんな顔なんてさせたくないのに。
本当は、本当なら。






…そうか、この感情は、きっと。


「ああ」
去って行く彼の背を見ながら、カチリとピースがはまった音がした。
これで全部、探していた絵が見える。
地面にごろりと横たわって空を見上げたら、また涙が出てきた。

「俺は、彼に恋してたんだ」
出来上がるのが遅かった絵は、とても悲しい色をしていた。

拍手

PR

Copyright © Re:pray : All rights reserved

「Re:pray」に掲載されている文章・画像・その他すべての無断転載・無断掲載を禁止します。

TemplateDesign by KARMA7
忍者ブログ [PR]