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ある帰り道

恋じゃないだろうと決め付けた高鳴りは、明らかにそれと酷似した。
そんなある日の帰り道。





大学に入学してそろそろ一月経とうとする頃、フリオニールを含む仲良し8人組はいつものようにクラウドの家に溜まっていた。
初めの頃こそ、賑やかなバッツやティーダが場を盛り上げ、フリオニールも唯一同性であるティナとその場の空気を楽しみつつまったりしていた。
しかし、外が暗くなるに連れ一人二人と減っていき、今では家主であるクラウドとウォーリア、フリオニールの三人だけになっていた。
そもそも、フリオニールも途中で帰ろうとしたのだが、ある一言によってこの場に留まっている。
全ては、雨に起因していた。



フリオニールとウォーリアは同じアパートの隣人同士である。
普段は二人とも自転車で通学しているが、この日は午前中雨に見舞われた。
そのため、フリオニールは本日自転車ではなくバスに乗って大学まできたのである。
先程帰ろうとしたのは、最後の便が出る時間が近かったためだ。
ところが、その話を聞いたクラウドはウォーリアを見ながら言った。
「どうせ帰るところは一緒だ、送ってもらえばいい」
雨は幸いにも午後には上がり、晴れ間すら覗かせていた。
本日も絶賛自転車通学のウォーリアもその案に賛成のようだ。
二人がそう言うのならと、フリオニールもその提案に乗っかることにした。





日付が変わるのも近くなってきた頃、ようやくその場はお開きとなった。
家主に別れを告げて、アパートの外に出た。
日中とは違うひんやりした風が柔らかく襲う。
「寒っ!」
日中は良かったとは言え、今の時間に薄手のシャツだけなのは堪える。
思わず口にした言葉と自分の服装に、フリオニールはため息をついた。
すると、スッと何かが掛けられる感触。
落ちそうになったそれを慌てて掴んで見た。
見覚えのあるベージュのジャケット。
「それを羽織るといい」
そう言い、ウォーリアは自転車の元に近付く。
寒いのは彼も同じだろうと返そうとしたが、結局押し切られたフリオニールはそれに腕を通した。
余った袖と彼の匂いが、居心地を悪くさせた。
自転車置き場から戻ってきたウォーリアは、早く後ろに乗るように急かした。



実は、フリオニールはこれまで二人乗りなどしたことがなかった。
鞄を預けて荷台に座ったものの、この手はどこを掴めば良いのだろう?
目前の彼の服を掴むというのも考えたが、それを実行するにはまだ日が浅かった。
仕方なく荷台の余った箇所を掴んでいたが、前から抗議の声が飛ぶ。


「何をしている?
 早く腰の辺りに捕まれ」


やはりか、と思うと同時に恥ずかしさやら気まずさが込み上げたが、それではいつまでも帰れない。
観念して腰の辺りの服を遠慮がちに掴めば、満足そうな声が返ってきた。
それと同時に加速する自転車。
坂道を滑るように走る。



「あれ、そっち通るのか?」
「行ったことがないからな」
途中の分かれ道、ウォーリアはいつもと違う道を選んだ。
また道は交わるのでどちらを通っても構わないのだが、いつも反対の道を二人とも選んでいた。
未だに坂道の途中、新しく踏み込んだ道はキラキラ輝いていた。
「わぁ………!」
視界に広がったのは夜景だった。
まるで星屑の中を走っているような錯覚さえ覚える。
「綺麗だな」
「ああ、今度からこっち通って帰ろうかな?」
荷台に座るフリオニールからは、ウォーリアの顔が見えない。
風を切る音が少しうるさかったが、それは確かに聞こえた。


「ああ、そうだな」


柔らかく述べられた言葉は、動揺を誘うには十分で。
出会って間もない隣人の新しい側面が、帰る間も彼女を支配していた。




アパートに着き、鞄を受け取って、いつものように少し話をしてからぎこちなく別れた。
先程から胸が落ち着かないが、異性と二人乗りで帰ってきたせいだろうと結論づけた。
部屋着に着替えようと上着を脱いだとき、手に持ったジャケットを見てはたと思い出した。


「…なんで言わないんだよ」


恨み言は、きっと隣人には届かない。

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