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誤解と君と、

「で、お前はどうなんだ?」
「…何が?」


穏やかな昼下がり、菓子を食べていたフリオニールの手が止まった。
意図が理解しがたい質問を投げかけたクラウドは、いつもと変わらない無愛想な顔で彼女を見つめている。
「ちょっと待て、俺はお前の惚気話を聞かされてたはずだ」
「その通りだな」
最近、クラウドには彼女ができた。
しかも、それは見知らぬ誰かではなく、大学に入学して以来ずっと仲良くしていたティナである。
そのことは彼らから直接聞いたわけではないが、二人の距離が近くなったことから、仲間は全員それを悟っていた。
そんな彼の話題の矛先は、今明らかにフリオニールの惚気話へ転化しようとしている。
しかし、彼女には大きな疑問があった。

「俺に話振られても、何も話題ないんだけど」

彼女には「恋人」と呼べる間柄の者などいないのだ。
フリオニールの一言を聞いたクラウドは、珍しく驚いた表情をした。
「付き合ってるんじゃないのか?
 ティナもそう言うから、てっきりそうだと思ってたんだが…」
「付き合ってるって……誰と?」
「ウォーリア」
その返答を聞き、今度はフリオニールが目を見開いた。
「何でそんなことになってんの!?」
「明らかに距離がおかしい」
「隣に住んでるんだから当たり前だろ?」
「それなら尚更、付き合っていてもおかしくないだろう?」
それに対し、言葉を詰まらせて赤面しながら俯くフリオニールを見て、クラウドは改めて彼女が女性であることを痛感した。



フリオニールは元々の振る舞いが男性らしいため、入学から一年経った仲間内ではあまり女性扱いされていない。
中学生のするような下ネタ話を目の前でされても、苦笑して何も言わないのはもはや普通の光景である。
そんな彼女を気遣っていたのは、隣人であるウォーリアであった。
彼女に何かあれば真っ先に反応するのは彼であったし、彼女もそんな彼に頼ることが多かった。
しかも、性格は全く異なっているのに、どういうわけか二人はとても気が合ったのだ。
それがさらに距離を縮めるきっかけとなり、誤解されるまでに至る。
「…そんなにそう見えるのか?」
「少なくとも俺たちは、だが。
 勘違いされると困ることでもあるのか?」
「いや、それはないんだけど…」
未だに俯く彼女は何かを思案しているようであった。





その後も、フリオニールは度々ウォーリアとの関係を指摘されるようになった。
他の仲間はもちろん、そこまで親しくはないはずの人にまで、その勘違いは浸透しきっているらしい。
もちろん、そのことを聞かれる度に否定をしているのだが、相手側はあまり信用していない。
というよりも、「今は付き合ってないけど、どうせいつか付き合うんでしょ?」というのが彼ら共通の考えのようだ。
先程もバッツとその話題になり、「付き合ってないなら『抱いて!』って叫べばよくね?」と言われ、笑いながら持っていた本で彼の頭を殴ってきたところだ。
誤解の広がりように、フリオニールは頭を抱えていた。
彼女にとって、そう言われることは実際どうでもいいことなのだ。
しかし、彼女が思案している問題は別の場所にあった。
「俺が知ってるってことは、向こうも知ってる……よなぁ、流石に」
「何がだ?」
「うわぁ!?」
唐突に後ろからかけられた声に、思わず過剰に反応してしまった。
慌てて振り返ると、そこには見慣れた隣人の姿。
あまりの驚きぶりに彼自身も驚いたらしく、目を丸くしていた。
「すまない、驚かせたか?」
「い、いや!
 ちょっと考え事してたものだから…」
「…そうか」
それだけ言うと、彼はいつものように彼女の隣に腰掛ける。
そして、スッと持っていた袋を差し出した。
「食べるか?」
「あ、うん、ありがとう」
勧められた菓子を一つ、口に頬張った。
いつもならこの一口でどれだけ幸せになれただろう。
小さな余韻を感じながら、彼女はぼんやりそう思った。




彼女から言わせてみれば、彼は自分に特別優しいのではなく誰にでも優しかった。
世間一般に彼がモテる部類であることも知っているが、それと同時に彼自身が恋愛に淡白であることも知っている。
それらを踏まえて、どう見れば自分と彼が付き合ってることになるのか、フリオニールには皆目見当がつかなかった。
そして何より、とりえのない自分がこの誤解でどれだけ彼の足を引っ張っているのか。
それだけが気がかりで仕方がなかった。
しかし、それを口に出して確かめるわけにもいかず、思考は堂々巡りするばかりだ。



「さっき、バッツと会った」
菓子を一つ頬張りながら、隣に座る彼が言った。
フリオニールは内心余計なことを言われたのではとビクビクしたが、それはそれで今回の件について聞く手間が省けるからいいかともどこかで思っていた。
「ふーん」
普段どおりに振舞おうと、興味のない返事をする。
変なニュアンスで発音しなかったかだけが気がかりだ。
「バッツもそうだが、最近皆おかしくないか?」
「何が?」
「視線が、だ」
嫌な汗が流れたような気がした。
フリオニールは自身の体温が若干下がるのを感じた。
きっと正直な自分のことだ、顔にも出てしまっているのだろう。
どうでもいいことには鈍感であるくせに、ウォーリアは人の変化に対しては誰よりも鋭い。

まずい、これはまずい。

「フリオニール」
「…何?」
「君は理由を知っているみたいだな」
「……そうだとしたら?」
次に来る言葉は、決まっている。
彼にだけは嘘がつけない自分は、正直に話してしまうのだろう。
そう思うと、この場から逃げたくて仕方がなかった。



「理由を、教えてくれないか」



神様、どうかこの答えが彼との関係を壊す一言になりませんように。
心の中で、フリオニールはそう祈った。

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