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疑惑

疑惑は尽きることがない。
たまたま近くを通りかかったガイに目の前の男を押さえてもらい、その内にアジト本部へ向かう。
ごたごたと忙しいときにとんだ来客だ、と内心毒づいた。
「みんな、こんなときで悪いんだがちょっと来てくれ。
 俺だけじゃどうも判断ができなくて…」




突然の訪問者の額に手をかざしてしばらくすると、ミンウの眉間に皺が寄った。
正体を確かめるのであれば、先見の明を持つミンウにということで意見がまとまったのだが、どうも当てが外れたようだ。
剣と盾を取り上げられ、地に膝を着き、手を後ろに拘束された男も彼の様子を伺っていた。
「…貴方は私たちと出会う前に、本当に4体のカオスと、カオスと化した男を…」
「ああ、倒してきた」
その言葉にますます彼の眉間の皺は深くなる。
どうも「信じられない」という感じらしい。
カオスというものがどのようなものなのかはよく分からないが、災厄か何かのことなのだろうか。
眉間に皺を刻みながら考え込んでいたミンウが重く口を開く。

「先に言わせてもらう。
 貴方の記憶の中の戦いを、私は書物で読んだことがある」

その場が一瞬凍りつくのを感じた。
無理もない、書物に載る戦というのならば、過去の大戦か、はたまた架空の物語程度のものだ。
しかし、今より前に起こった大戦の人物など、遠い昔に亡くなっているだろう。
と、するのならば。
「神話の一説だ。
 世界は4つのクリスタルで成り立っており、その世界は負の連鎖に苛まれていた。
 この者の記憶が正しいのなら、彼はその地に降り立った戦士の一人ということになる」
「でも、神話なんだろう?
 神話なんて御伽噺と等しいじゃないか」
つまり、記憶としての信憑性は何もないということ。
本の中から出てきたとか、そんな非現実な話など聞いたことがない。
神話の勇者が目の前にいるって?
そんなの、ただのペテンではないか。
かざしていた手を下ろし、こちらにミンウは向き直った。


「彼の記憶から答えを導き出すのであれば、限りなく黒に近い。
 ただ、私の直感から言わせてもらうのであれば、彼はほとんど白だ」


つまり、ここで殺すべきではないといったところか。
ミンウが補足したことをまとめると、この人物の正体に絡む可能性は3つ。
一つは、読み取れる記憶を操作し、反乱軍に潜り込んだ帝国軍のスパイ。
二つ目は、記憶を改ざんされ、反乱軍に内乱をもたらすための駒。
そして三つ目は、彼の語る記憶は本物であり、その正体も彼が語るままのものであること。
記憶の改ざんを調べるための術には相当の時間がかかるのだが、今ミンウには急ぎの使命がある。
そして、何より彼が気にかけたことは。
「彼の記憶には君がいたんだ、フリオニール」
「俺…?」
見知らぬ人物の中に自分がいるなどと、誰が思おうか。
私の判断だけでは決められない、とその場に居合わせたヒルダ王女に指示を煽った。
彼女も「貴方がそう言うのなら、誰かが常に見張っていれば問題はないのでは?」という判断に至った。
「それに、何をどう言おうが、彼自身の意思であなた方に同行するでしょうね」
そう付け加えて。






「どういうことだ、ミンウ!」
旅の支度を着実に進める彼の後ろを追いながら、あらん限りの声で叫んだ。
尋ねたいことはいろいろある。

被害が出てからでは遅いというのに、彼に反乱軍の資格を与えること。

次の目的地であるディストまで同行することになったこと。

そして。

「俺があいつの記憶にいるなんてことはありえない!
 もしいたとしても、それは敵として対峙した記憶じゃ…」
「そうではないんだ、フリオニール」
道具の品定めをしながら、ミンウは諭すような口調でようやく口を開いた。
彼の手の中にあるポーションの瓶が、光に反射する。
シャラリ、と彼の耳飾りの鳴る音が響く。
「君は彼に、彼は君に、背を預けて戦っていた。
 それに、相当なペテン師でない限り、嘘を吐きながらあんな真摯な目をしないだろう。
 自分で可能性を提示しておいてなんだが、一番初めに言った可能性はないと思う」
「じゃあ、あいつの御伽噺のような記憶を信じろと?」
「…私自身も不思議で仕方ないんだが、彼のあの記憶は偽りではない気がするんだ」
そう言うミンウの表情は、複雑に見えた。
無理もない、御伽噺の主人公が目の前に現れることなどないのだ。
「それに、あまり人の過去を詮索するものではない。
 その上他人からとは、あまり行儀のいいものではないよ」
「自分のことは棚上げか?」
「私は許可をもらった、同意の上だ」
さらりと非難をかわし、ミンウはまた物資の品定めに集中し始めた。
これ以上の詮索と抗議はどうも無駄らしい。
ため息を吐いてその場を立ち去った。




「それに、彼には君が必要なんだ」
そんな呟きは、俺の耳にまで届かなかった。

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