忍者ブログ

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

とある輪廻の話

その世界には2人の神様と4人の駒しか存在しなかった。
その神様の一人である秩序の女神を守るための駒として呼ばれたのは、俺と、まだ10歳程度の幼い少年だった。
これは6人だけでは広すぎるこの世界で起こった、悲しい戦いのお話。








この世界に呼ばれてから、随分時が過ぎた。
広大な土地が広がっている割には、その構造はそれぞれの神がいる地と古びた宮殿、薄気味悪い城の4つにあっさり分けることができ、それぞれを森林や川などの自然が繋いでいた。
本当ならば幼い少年を守るために女神のいる土地に留まっているのがいいのだろうが、一点に留まり続ければ女神ごと一気に打ち滅ぼされてしまうだろう。
それを考慮し、あまり長い時間同じ場所に留まらずに移動し続けることを提案した。
しかし、姿を隠すことはできてもその場から動けない女神のことを考えると、あまり遠くまで行くこともできない。
そもそも、他の場所は女神の加護が薄れている上に、混沌の神の駒が残りの場所をそれぞれ陣取っていると聞いた。
自分と同じ立場の少年のことを思えば、彼らと対面して戦うという事態は極力避けなければならない事項であった。
そのため、彼らと会う可能性の低いルートを選択し、たまに遭遇する駒の似姿をやり過ごしながら先を急いだ。
だが稀に混沌の駒と出くわすことがあり、何度かガーランドという甲冑の男と対面した。
あの男ほどの実力があるのならばこちらを根絶やしにすることなど造作もないはずなのだが、何故か彼は毎回こちらを見逃してくれている。
何か意図があるのかと勘ぐってはいるのだが、元々頭の出来が宜しくないのでこれという理由は未だに思いつかない。





敵のことばかりを話しても仕方がない、少年のことを話そう。
彼は初めて会ったときは幼い容姿をしていたが、それから幾月か過ぎた現在では背も伸び精悍な顔つきになってきた。
パッと見た感じでは15歳前後、と言ったところだろうか。
女神曰く、「彼の授かった力は特別で、彼の体はそれを受け入れるために変化している途中」なのだそうだ。
ごく一般的な家庭の出である俺にはよく理解できなかったが、まぁそういうものなのだろうと曖昧に納得している。
それに女神の言う特別な力がそうさせているのか、初めは護身用に簡単に教えていた――そもそも人にものを教えるのが苦手なので、しっかり教えることができなかった――剣術を、いつの間にか盾を用いた攻防一体の戦術へと磨き上げた。
しばらく前に模擬戦を申し込まれてから何度か手合わせもしているが、ここ最近の勝率は五分五分である。
力に関しては腕っ節だけは初めから強かったのだが、技術的な面が欠けていたのでどうしても隙が多く生まれていた。
自分も我流で腕を磨いた身であるためお世辞にも強いとはいえないが、その自分がそう思うなら相当なのだろう。
しかし、身体の成長と比例するかのように、彼はその技術の差すら埋めていったのである。
体の成長するスピードが驚異的なら力をつけるスピードも驚異的なのか、と何故か感心してしまった。



彼に関して変わったことといえば他にもある。
彼は一切の記憶を持っておらず、それと同時に感情や一般的な知識の一部が欠落している。
初めのうちはこのような辛い状況を嘆き、心を閉ざしているのかと思っていた。
しかし、一度だけガーランドから逃げ切るために大怪我を負ったとき、彼はいつもの無表情のまま尋ねてきた。
「君はどうしてそこまで自分を犠牲にするんだ?
 私を置いて逃げれば、そこまで怪我を負うこともなかっただろう」
確か、彼がまともに話したのもあのときが初めてだったと思う。
いつも何を聞いても頷くか首を振るだけの少年が、あのときは自分の言葉で自分の思いを告げてくれた。
それがとても新鮮だった。
「そんなことしたら、俺がずっと後悔するだろ」
「しかし、君が死ぬ危険性だけは下がっただろう」
「いいんだよ、俺は。
 元々死んでたはずの命だから、誰かを護るのに使いたいんだ」
「理解しかねる」
「それはどうも。
 でも無茶はできるだけしないようにするよ、しょっちゅう怪我してたら君も心配だろうし」
重い上半身を何とか持ち上げ、奇跡的に持ち合わせていたポーションを取り出した。
傷の治療を始めた目の端で、少年が小さく首を傾げた。
「…心配?」
「…どうしたんだ?」
「すまない、『心配』とは何なのだろうか?」
耳を疑ったが、同時に今までの彼の行動にも納得できた。
彼は気持ちの表し方を知らないこと、その気持ちの名前を知らないこと、やはり彼は「普通」ではないこと。
無性に目の前の少年を抱きしめたい衝動に駆られたが、そうしてしまえばきっと自分は泣いてしまっていただろう。
そうなればこの不器用な少年は困ってしまうに違いない。
「…今、君は俺の身を案じてくれただろう。
 そういう気持ちだよ」
ひねり出したようなか細い声でそう答えた。


その日から、彼には思ったことはどんなことでもいいから伝えて欲しいと頼んだ。
そこは流石に年相応…むしろなくなったものを取り戻すほどの勢いで、彼はさまざまなことを伝え、知識という知識を蓄えていった。
幸い、俺に分からないことは後でコスモスが教えてくれたため、彼の知識への欲求は遅かれ早かれ満たされる場合が多かった。
そして、最近の彼は初めのころに比べれば格段に人間らしくなった。
それを嬉しく思いながら、心のどこかで危惧していた。
その不安は大きな綻びとなり、この安定しかけていた状況を急変させる。





ここ最近では、彼も戦力として戦いに加わるようになっていた。
とは言っても彼が一人で相手にできるのは若干強い似姿までであり、それよりも力のあるものは自分も加勢して倒していた。
混沌の駒と遭うこともなくなり、慢心しきっていたのかもしれない。
そこへ未だ遭ったことのない混沌の駒、皇帝がついに動き出したのだ。
皇帝は俺が元いた世界でも長い間人々を苦しめていた存在だった。
混沌の駒が2人いることだけは聞いていたが、まさか奴がいるとはそのときまで知る由もなかった。



そのとき………そう、奴が得意とする罠に自身が嵌ってしまうまで。


何のことはない、似姿との戦いがもつれ込んであの薄気味悪い城に足を踏み入れてしまったのだ。
それまで敵の本拠地には近づかないようにしていたが、戦力の増加にいささか慢心してしまっていた。
床一面に大きな紋章が怪しく光ったことに気がついたときにはもう遅かった。
周りを閃光が取り囲み、目に捉えきれない速度でこちらに迫ってきていた。
ここまでか、と目を瞑った瞬間、体が外へと弾き出された。




驚きで開いた目の先には、無数の光に囲まれた少年がいた。









それから先のことはあまり覚えていない。
僅かに覚えているのは、少年の「心配だった」という一言と彼の体が消えていく感覚だった。
皇帝が無様な俺を嗤ったような気がした。
俺の体が酷く引き裂かれたような気がした。
どれもこれも今となっては上手く思い出せないのだ。
悔しくて涙が流れた。
歯を食いしばろうにも上手く力が入らない。
漏れる泣き声からはヒューヒューと力の入らない音しか聞こえない。
「次こそは、誰かを護り切りたかったのに」
その言葉が音になったかどうかすら、俺には分からなかった。



***



「だから言ったであろう、あの青年は少年以上に恐ろしい存在だと。
 己の力を過信しすぎたのだな。
 まったく愚かな奴であった、その詰めの甘ささえなければ無意味にこのような真似もしなかったであろうに」
甲冑の男は呆れたように言った。
世界は急速に巻き戻り始め、これまでの戦いがなかったかのように全てが変わる。
そのはずなのに、甲冑の男は確かにそこに存在していた。
そして、誰もいない虚空に告げた。

「次の輪廻では悔やむことがないと良いな、青年よ」

拍手

PR

Copyright © Re:pray : All rights reserved

「Re:pray」に掲載されている文章・画像・その他すべての無断転載・無断掲載を禁止します。

TemplateDesign by KARMA7
忍者ブログ [PR]