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臆病者は優しい嘘吐き

※拙宅のアナザー性格設定
1:気さくで優しいお兄さん。言動に影があるのを隠してうまく立ち回っている。親しい人物の前のみ普段の口調に戻る。
2:無口で無愛想だが根は仲間思い。しかしつっけんどんなので年下組の半数に怖がられている。アナザー作品は基本彼視点。
4:本陣最年長、アラサー。大人の余裕と気品で周囲を安心させている。ルーネスくらいの子供がいるので彼には少々過保護。
7:本陣の参謀役。実は結構重度の星痕が体を蝕んでいるが知っているのはごく一部のみ。数少ないフリオニールの相談役。
大丈夫そうな人だけ続きをどうぞ。
















そのときになって初めて、俺は思い知らされてしまった。
悔しくて泣きそうになったが、霞んでいく視界と途切れかかる思考ではその感情すら保てない。
身体の熱が引いていく。
音が遠ざかる。
全てが途切れそうになったとき、聞きたかった声が聞こえた気がした。

思わず自嘲してしまいそうになった。
自分は一体、どれだけあの男に執着していたというのだろう。









事の起こりなどもう忘れた。
というよりも、「興味がなかった」と言い換えたほうが正しい。
仲間を護ると決めることと誰かと親しくなることは、まったく別の問題であるからだ。
そのため、どうして共にいるようになったのかはほとんど覚えていない。
そんなことを口にしたなら奴は拗ねてみせるのだろうが、きっと奴自身も俺より少し詳しく覚えている程度で本当の発端は覚えていないだろう。
なぜなら後に尋ねたところ、奴は「君に話しかけたのは何となくそうしないとって思ったから」と曖昧な回答しかしなかったからである。
「きっとどこかにいる僕は、もう一人の君と仲がいいんだろうね」
そんなことも言っていたような気もするが、そんな現実味のない回答は当然根拠も何もないので理由には遠く及ばない。
しかし、気がつけば奴が傍にいることは当たり前になっていた。
それが事実なのだから、最早理由に固執する意味など何処にも残っていない。




奴は底抜けに明るかった。
戦況は劣勢、物資不足に苦しむ中、ただただ奴はひたむきに明るかった。
その明るさに年少の戦士は救われていたようで、慕う奴も多かった。
認めたくはないが、俺もきっとその一人だったのだろう。
奴が陣営内でリーダーの地位を確立してきた頃、クラウドにそうなんじゃないかと聞かれたことがあった。
そのときはものすごい剣幕で否定したが、それでも彼は笑っていた気がする。
お前の余裕が羨ましい、と多少の嫌味を込めて話せば、案の定苦笑しながらこう返された。
「余裕がないことを知っていて、よくそんなことが言えるな」
こんな軽口の言い合いが赦されるのはいつまでだろうか。
戦いの結末や彼に残された命の期限を思い、ただ憂うことしかできない自分が悔しかった。



奴の様子がおかしい。
そのことに気がついたのは、戦況が悪化し仲間の負傷者が増えてきた頃だった。
ほとんどの傷はポーションを塗布したりケアルを唱えることで回復できる。
しかし、重傷者をそれらで完治させようとすると膨大な数のポーションや術者の精神力が必要になった。
一度無理をして術を使ったティナが数日間寝込み、その間に更に被害を増やしてしまうという悪循環に陥ったこともあり、重傷者は症状を軽減させる程度しか回復を行えなかった。
そして、負傷するのは専ら自分であることが多かった。
以前からセシルやクラウドに自分を労われと警告されていたが、捨て身の戦法が何故か身体に刷り込まれているため、簡単に改善できない。
そのため、戦いが激化する中自己犠牲的な戦術を取る自分が深手を負うのは当然の結果であり、無論そのせいで命を落としても自分は何の文句も言えない。
しかし、気がつくといつも目の前には間の抜けた顔をした奴がいるのだから不思議なものである。
奴は俺が怪我をしたことを確認すると大体軽めに注意するのだが、一度だけ気を失って寝込んだときはとんでもない剣幕で怒り出した後急にしおらしくなった。
それからだろうか、以前はそこまで気にしていなかった奴自身のことがだいぶ分かるようになってきた。
そこで分かったのは、奴は周りが思っているよりも明るく実直な人物ではないということだった。


奴はいつだって笑っていたはずだった。
しかし、奴にだって辛いことの1つや2つあってもおかしくはない。
奴の場合は「底抜けに明るく振舞う」ことで、悩みの存在が小さく見えてしまっていたのだろう。
実際のところ、奴の悩みはその影以上に大きいものであったようで、人目のつかない場所でその不安を一人吐き出し続けていたようだった。
気付いてしまったらどうにも放っておけず、強い調子で問い質してしまった。
初めはいつもの調子で明るく返されたが、次第にその余裕は薄れていき、ぽつりぽつりと本音のようなものが呟かれた。
分かったのは記憶に不備が生じていること。
ここにいるものは大体記憶が曖昧であるのだが、奴の場合は全員に出会う以前の記憶が存在しないに等しかった。
「等しかった」というのは、飛び飛びではあるが記憶のようなものは僅かに存在しているからだ。
それらはたまにデジャヴのように現状と記憶が一致して初めて自覚するもので、必ず仲間の誰かがいる不可解なものだった。
当然本人はその記憶など身に覚えがなく、自身の正体に恐れすら感じているようだった。
それ故に明るく振舞い、自身の本心から仲間を遠ざけていたのだと、普段の奴からは想像もできない悲痛めいた声で告白された。
その後、「聞いてくれたのが君でよかった」と言われたが、何故俺でよかったのかは今でも理解できない。



そもそも、俺は奴に心を開かれるような人物であったかと聞かれればそうではないと答えるだろう。
俺自身も奴のように仲間を遠ざけるための行動を良く取った。
しかし、彼らが大切ではないのかと聞かれたなら、もちろん大切な仲間であると答える。
何故なら前述したように仲間を護ることと親しくなることはまったく別のことだからだ。
もし彼らと仲良くなったとしても、自分の身体を見た時彼らはどう思うのだろうか。
自分でも覚えてはいないのだが、自分の身体には無数の傷跡の中に致命傷の痕が2箇所ほど際立って存在していた。
特に喉元の傷跡は貫通したもののようで、これを治療した術師は相当腕の立つ人物であったことが容易に想像できた。
しかし、やはりそれらは生々しく、盛り上がった傷口など他人から見たら痛々しくて見るに耐えないだろう。
自分より年上に当たる仲間はそのような戦渦の中にいたのか割とあっさり理解を示し、余計なことも聞かずにいてくれた。
しかし歳の近いほかの仲間はそうしてくれないだろう。
特に最年少のルーネスや女であるティナは怯えさせてしまう可能性すらあった。
例え怯えさせることがなかったとしても、俺はその後彼らに特別扱いされてしまうのではないだろうか。
俺は彼らと同じ位置で戦う戦士にはなれないのではないか。
とどのつまり、俺は彼らと同じでいたいという身勝手な理由から仲間を遠ざけていた。
クラウドからは「考えすぎだ」と言われたが、彼もまた自分の病のことを仲間に告げないのだから、その言葉の信憑性は薄い。
そうでなくてもぶっきらぼうな自分のことだから、きっとうまく馴染めないに違いない。





戦況は更に悪化した。
ついに死者が出てしまったのだ。
ルーネスを庇ったセシルが敵の一撃を急所に受けてしまった。
ほぼ即死であり、何度も魔法をかけたがもう一度彼が目覚めることはなかった。
その頃にはクラウドの病状も悪化し、隠しきれなくなった彼は仲間の勧めで治療に専念していた。
病気はどうやら自身の心が揺らいでいることが一番の原因であると彼は言っていた。
それを聞いたときにそんな風には見えない、と言ったら「お前に救われてるんだ」とまた理解しがたいことを言われた。
俺は彼らに何かしてあげられたのだろうか。
考えてはみたけど、それらしい答えは1つも見つからなかった。

セシルが死んでしまった日から、あいつは一層荒れていた。
一応仲間の前では落ち込む者を励まし、元気付けてはいたのだが、いざ話してみると奴自身も相当ショックであったようだ。
それだけではなく、戦闘中に例のデジャヴが頻繁に起こるようになったらしく、それが余計奴を混乱させていた。
「君は、君だけはいなくならないでくれ…」
そう言って弱々しく回された腕の温かさが酷く心地よかったことを覚えている。
その時は自分の腕を奴の背に回し、子どもをあやす時のように優しくその背を叩き続けた。




迂闊だった。
いつもの捨て身の戦法を逆手に取られ、皇帝に優位に立たれてしまった。
喉元にご自慢の杖を突き立てられてしまい身動きができない。
杖といえども先は槍のように鋭利で、力を入れて突けば喉など容易に貫通できるに違いない。
得意げにあの鼻につくような笑みを浮かべていたが、こちらが顔色1つ変えないことが不満だったのだろう、突如憤慨しその杖に力を籠めて右腕へと突き立てた。
激痛に顔を顰めたのがようやくお気に召したらしく、またあの得意げな笑みを浮かべて自慢げに何かを言っていた。
それまでの戦闘で体力の消費が激しかったため身体に力が入らなかったが、それを無理にでも動かし、この利き腕を切り落としてでも自分は生きて帰らなければならない。
約束したのだ、他の誰でもないあの明るく振舞う優しい臆病者に。
奴が得意になっている隙を衝き、腕に突き立てられた杖を抜き取り、そのまま背にしていた壁に突き立てた。
そしてそのまま走り去り、本陣に戻る。

その予定だった。

「勝利を確信するものは自滅する…そんな世迷言は弱者のために存在するのだ」
耳元で囁かれたその言葉に戦慄した。
そんなはずはない、奴より数メートルは遠くへ逃げたはず。
何が。
どうやって。
疑問が駆け巡る中振り向いた先には、あの嫌味な微笑みが見えた。
激痛と熱さが喉から全身へ駆け巡ったのはその直後だった。





倒れていく中思ったのは約束を守ることができなかった悔しさと申し訳なさ。
そして、あと一度でいいから奴と笑って話をするチャンスが欲しいなどという、今更過ぎてどうしようもない願望だった。













意識が浮上する。
俺は…ああそうか、喉を裂かれて死んだのだったか。
なら目を覚ました先にいるのはあの間抜け顔ではないはずだ。
ゆっくりと目を見開くと、そこには見慣れた天幕と疲れて寝てしまったらしい奴の姿が見えた。
………どういうことだ。
夢だったのだろうかと首を触ると、そこには包帯が巻かれていた。
首にはちりちりとした痛みを感じるので、裂かれたことは間違いないだろう。
気だるい身体を起こし、辺りを見回す。
右腕の傷は完治しており、天幕の中にはどうやら奴しかいないらしい。
血だらけの包帯や水の入った桶、浸された布など相当必死で看病していたらしい痕跡がいくつも見えた。
それらはつい先日殺されたセシルを治療していた天幕を見ているようで、それだけ自分が危ない状況であったことは容易に想像できた。
そして同時に、そこまでして自分は生かされるべき存在なのかと疑問に思った。
確かに戦において戦力の減少は避けたいものではあるが、それだけの理由で生かしたとしても自分を傷つけて戦う術しか知らない奴など放っておいてもまた死にそうになるのは見るも明らかだ。
それならば、回復の道具やその手間一切を温存しておいたほうが後に有利に働くに決まっている。
自在に動く自分の手を眺めつつ、何とも言えない遣る瀬無さに包まれていた。


奴は相当疲れで参っているようで、泥のように眠っていた。
何もかけずに寝ていては風邪を引くだろうと思い、先ほどまで使っていた毛布をかけ、さて自分はどうしようかと周りを探っていたところでようやく目が覚めた。
おはよう、と何もなかったように声をかければ、また前のように怒り出すだろうか。
「…君、いつから起きてたんだ…?」
「ついさっき。
 それより毛布は…」
何処だ、と続けようとしたところで背中に衝撃と首に激痛が走った。
少し経って押し倒されたのかと悟り、そして驚愕した。
こいつはたとえ怒ったり弱音を吐くことはあっても、人前では絶対に泣かないだろうと思っていたからだ。
これには本当に驚いてしまい、何するんだと抗議するのをすっかり忘れてしまった。
「……ッ!
 君は、どれだけ心配かけたと思ってるんだ!」
「…すまん」
奴はここまで感情的な人間であっただろうか。
普段は明るく振舞っているが、奴の本心は奥に仕舞い過ぎてすべてを垣間見ることなど親しい者でも不可能だからだ。
弱音を誰かに吐き出すだけでも、こいつの場合常人以上に気を張っているに違いない。
そんな奴なのに、どうして。
「どうして…」
「?」
「どうして…俺なんだ?」
「…何が?」
「あんたが俺に他の仲間以上に心を許してるのは知ってる。
 けど、俺はあんたの力になってやれることなんて何もしてない。
 むしろ突き放すようなことさえしたし、これからもあんたの力にはなってやれないかもしれない。
 それなのに…」
自分で言っていて虚しくなってきた。
しかしそれが事実だ、正直なところ自分には誰かを支えられるだけの余裕など何処にも存在しなかった。
現に今回もまたこいつを傷つけてしまっているではないか。
先ほどまで泣いていた奴はしばらく泣くことを忘れ、目を丸くしていた。
そして、優しく微笑んだ。



「君は知らないかもしれないけど、私はもう随分助けられてるんだ」



話をまとめるとこういうことだ。
セシルの件が引き金になり、こいつの欠けている記憶が急速に埋まりだしたという。
その記憶はむしろ「前世」と呼ぶのが相応しいらしく、今のこいつには関係のないものであることがその過程ではっきりした。
しかし、それと同時にこの戦いが幾度となく繰り返されてきたものであることを知ってしまい、その過程で何度も自身の仲間が倒れてきたことまで鮮明に思い出したらしい。
当時のこいつが荒れていたのはそのことが堪えていたらしいが、余計な心配をさせまいとそれだけを伏せて伝えていたという。
その頃、記憶のことは奴が話す以上のことは深く追求しないようにしていた。
それでも不安そうにする奴は放っておけないので、結局落ち着くまで傍にいてやることしかできなかった。
「君の優しさにはたくさん助けられた。
 私はどうしようもなく嘘つきで臆病者だが、君はそんな私を知っても受け入れてくれた。
 だから私は君に甘えていたし、君がいなくなることに耐えられなかった」
身勝手すぎる理由だけど、と最後に付け足し、そのまま俺の上に倒れこんだ。
鎧を外してはいるが鍛えられた体は重く、それでいて払いのけ難い温かさを持っていた。
「だから、良かった」
ぽつりと吐き出された言葉と共に、こいつの鼓動が伝わってくる。

今なら全て言えるだろうか。
あんたと本当に笑いあって話がしたいと思ったこと。
俺自身もあんたの明るさと優しさに救われていたこと。
そしてもう1つ。
「俺、もう一度あんたに会えたら言おうと思ってたんだ」





「ありがとう。
 大好きだ、ライト」

さて、俺は今うまく笑えているだろうか。

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