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あなたとおしゃべり

そういうおしゃべりは嫌いじゃないの。
ただあなたとするのは少しだけ傷つくかしら。なんて。




街が色づき始めて一週間経った。
夜になればそれはもうロマンチックな光景が目の前いっぱいに広がるのだけれど、生憎それを見に行く相手がいるはずもなく。
まぁ、聖なる夜を過ごす相手はいないけれど、こうして限定コスメという恩恵に与れることには感謝しようと思う。
そして、なんとも似合わない場所で彼に偶然再会したことも。


「…で、どうしてこんなところに連れてこられたのかしら?」
化粧品売り場から機嫌よく出てきたと同時に彼にほぼ拉致されるように捕まり、近くのコーヒーショップに連れ込まれた。
コーヒーを奢るという一言と本当に困り果てた顔さえなければ、いつものようにするりとかわしていたところだ。
「いや、姐さんなら女性の好みとやらが分かるんじゃねーかと思って」
「へぇ、ボウヤにそういう物を贈る相手がいたなんて意外ね」
からかうように言えば、目の前の相手は顔を赤くして自分のカプチーノに口をつけていた。
普段からそういう態度であれば可愛げもあるのに、この少年は奇抜な行動のほうが先立って目立つから珍しいものを見た驚きの方が勝ってしまった。
正直、もったいないと思う。
「でも、女性の好みくらいならあなたの学校にも分かる人居るでしょ」
「んなの野球部の連中に聞けっかよ。そうじゃねー連中も彼女居ないやつばっかだし」
「あら、あなたのところの主将さんなら誰かいいお相手がいるかと思ってた」
「いても感覚違いすぎて参考になんねーわ、絶対」
それもそうか、と納得し、自分のコーヒーに口を付ける。苦味とほのかな酸味が口の中にじわりと広がった。
決して甘くなく暗い色をしたそれは、今の街の雰囲気から遠く離れているとぼんやり思った。


他の国じゃどうなのかは知らないが、日本でのクリスマスは恋人たちのために用意されたイベントに等しい。
デートの約束を取り付けるもの、夜明けまで一緒に過ごすもの、そして目の前の彼のように頭を悩ませるものと様々だ。
何がどうなってそうなったのかはアタシには分からないが、そうでもしないとマンネリになるのだろうと最近勝手に結論付けた。
愛する人と共に過ごすことは悪くはないし、何かをもらえることも嬉しいけれど、同時に薄っぺらくも見えるのだ。
きれいなイルミネーションを見る相手はいて欲しくても、そこで歯の浮くようなセリフをどや顔で言われでもしたらきっと興醒めだ。
しかし、そんなアタシの古びた恋愛論をここで説いても仕方がない。
目の前の彼が抱いているのはきっと甘くてきれいなイメージに違いないから、それは求めている答えにはならないだろう。
しかし、若い子の恋愛話を聞くのも悪くはないから、少々感じる嫌悪感は一切無視することにしている。
少しだけ悩む振りをして、ゆっくり口を開く。
「…いつごろから付き合ってるの?」
「あ、選抜の決勝のちょい前くらいッス」
「結構経ってるじゃない。好きなものくらい分かってるでしょ?」
「まぁ、そうなんスけど」
そう答える彼の表情は暗い。
好きなものが分かっているなら簡単じゃないか。それを贈ればきっと相手も喜ぶだろう。
それが分からないほど頭が悪いわけでもないはずだ。
ぐるりと思考をめぐらせて、ふと店内のクリスマスの装飾品が目に飛び込んだ。
ああ。もしかすると、そういうことなのかもしれない。

「あなた、何か特別なことでもしようと思ってる?」

ぴくり、と彼の肩が動いた。図星だ。
目立ちたがり屋なのは知っている。そういえば、見栄っ張りなことも人づてに聞いていた。
それならそう思い至るのも仕方がないと思う。それに、この歳なら初めて彼女が出来て舞い上がっていてもおかしくはないだろう。
はぁ、とつい溜息を漏らしてしまったが、そんなことはこの際どうでもいいように感じる。
「バカね」
つい本音が洩れたこともご愛嬌だ。
先ほどまでまた自分のカップに近づけていた顔をバッと上げ、彼は目を丸くしてこちらを見ていた。
「バカって…」
「あら、悪いわね。つい本音が」
そっけなく言えば納得いかないと言いたそうな顔で睨まれた。
予想通りであるので、自分のコーヒーに口を付けて無視を決め込む。
こうでもして落ち着かないと、自分の本音をつらつらとそのまま述べてしまいそうだ。
でもこれだけは言わせて欲しい。
「クリスマスってそんなに特別かしら?」
「はぁ?」
「だって普通の日と変わらないじゃない、クリスチャンでもないアタシたちには」


きっと相手が誕生日だとしても、バレンタインのお返しだとしても、付き合ってからの記念日だとしても。
この少年が「特別だから」とその度に悩むとするなら、それは酷く馬鹿らしく感じる。
ただその日が少しだけ意味を持っているだけで、本質的な何かが変わるわけじゃない。だからこそ、特別な何かに意味はないと思ってしまうのだ。
それに、毎度毎度それを強く意識してしまえば、いつか愛することに疲れてしまう。
しかし、それが普通になりつつある今、それが馬鹿らしいことに気がつく人はどれだけいるのだろう。
だからこそ純粋に思ってしまうのだ。
「だから、背伸びしなくても、あなたらしくしてればいいじゃない」
そんなに魅力的なんだから、と付け足そうかと思ったが、別にいいかと再び口を付けたコーヒーと共にその言葉も飲み干した。



それから少しだけ惚気話を聞かされて、開放された頃には空は少しだけ闇色に染まり始めていた。
結局、彼は彼女が好きそうなものを見繕ってあげることにしていた。それで十分だと思う。
しかし、話しているときの彼の幸せそうな顔といったら!
「…妬けちゃうわねぇ」
顔も知らない誰かに嫉妬するのはガラじゃないけど、ほんの少しだけそう思った。
それでも彼が幸せならそれでいいとも思う。無理して奪うのは結局自分も相手も幸せになれないからだ。

でも、少しだけ寂しいと感じるのは、どうしようもないので忘れてしまうことにした。

***

「sweets_0312はIDに「n」か「4」が入っているフォロワーさんのリクエストで文章を書きます。」
という訳でリクエストされた紅猿。というか紅→猿凪。
本当に意識しないとただ喋ってるだけの話になるな…。精進します。

というか紅印さんのキャラのつかみにくいこと…!
何度か書いては消してを繰り返してこれです。本当に申し訳ないです。


季節ネタなので、冷めないうちに…。

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