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私のいない家

※オリキャラ視点注意






久しぶりに実家に帰ると、そこには見慣れない少年がいた。




だいたい実家に帰るときは前もって連絡を入れているのだが、その日だけはそういう気分でもなかった。
仕事もなかなかうまくいかないし、そのせいで恋人ともギクシャクしはじめて、そこから少しだけ離れたくなって。
帰ろうと思えば遠くもないこの場所に、なんとなく戻ってみたのだけども。
「ただいまー」
鍵が開いてた我が家に入って言ってみたものの、家の中は驚くほど静寂に包まれていた。
母は専業主婦だから、家にいないことなんて買い物と旅行のときぐらい。
しかし、どちらにしろ鍵が開いているのは無用心すぎやしないだろうか。
そこで次に思いつくのは弟なのだが、あのやたらでかい靴が玄関にないし、出迎えに来たのは愛犬一匹だけだった。
まぁ、居たとしてもあいつは出迎えに来るどころか、嫌な顔してこっち見るだけでせいぜいだろうが。
2人ともいない。しかし、家の鍵は開いている。
どういうことなのだろうと首をかしげながらリビングに向かって、例の少年に出くわしたわけだ。



彼はソファで寝ていた。
寝ている姿勢からして、初めは背もたれに体を預けていたのだろうが、いつの間にか上半身は横になってしまったようだ。
しかも、たぶん弟のだろうと思われるブランケットまでかけられている。
出迎えから私の後ろをついてきた愛犬が、当然のように彼に近づいて、その足元で丸くなった。
その光景は明らかに異質であるはずなのに、妙に馴染んでしまっているように感じた。
なんていうか、今の私にはあまり面白い光景ではない。なんだか自分の唯一の居場所まで盗られてしまったような気がする。
そんな子供染みたことを思いながら、愛犬を踏まないようにして彼の顔の近くまで移動して、まじまじとその顔を覗き込む。

特別目立つ感じでもない、至って普通の少年だった。
弟と違い、まだ歳相応の幼さが残る顔。その頬にはそばかすが散らばっていて、鼻筋と共に少し赤みを帯びているようだ。
そして、少し下がった眉尻が、どことなく内気な印象を与える。
質朴。それが彼の第一印象だった。
しかし、彼はなぜここで眠っているのだろう。
昔、弟が友達を連れて来たときでさえ、こんなことはなかったというのに。
顔に似合わず厚顔無恥なところでもあるのだろうか。しかし、それならまず我の強い弟とそりが合わないような気がする。
それなら、彼がここに馴染んでいるように、彼もここに親しみを持っているのだろうか。
少なくても彼の知るそこに私はいないのだから、それはそれで複雑ではあるのだけども。


なんとなく、髪の毛に触れてみる。
少し明るめの、どちらかといえば男の人らしく硬質な髪だ。
ただあまり気にしていないのか、無造作に切り揃えてもらっているようだった。
少しだけもったいないと思ってから、逃げてきてるのに仕事のことから離れられない自分に自嘲する。
そういうのすら考えたくないはずなんだけどなぁ、と思ったとき。

ふと、目の前の彼が身じろぎした。

起こしてしまったのだろうか。慌てて手を離し、少しだけ緊張して彼の様子を窺った。
彼は少し唸ってから瞼を少しだけ持ち上げて、今にも眠りの世界に戻っていきそうな表情でこちらを見た。
そして、慌てて離して少し浮いたままだった手に自分のそれを伸ばして、ゆるゆると握りしめたのだ。
「へへ」
とろりと微笑んで、彼はまた眠りの世界に戻っていった。



きっと寝ぼけた彼は、肌の色や髪の色が似通った私を弟と見間違えたのだろう。
何で手を繋いできたのかは分からない。
彼と弟は本当に「友達」なのか、それも分からない。
けれども、さっき見せた笑顔といったら、それはもう幸せそうだったのだ。



振りほどけなかった右手と、そこから伝わる熱を感じながら、さてどうしようかと思考を切り替えたときだった。
「げ」
つい漏らしたような聞き慣れた声が聞こえた。
入り口の方を見やると、思った通りそこにはコンビニの袋をぶら下げた弟が、案の定嫌そうな顔をして立っていた。
「おかえり。ってかいつの間に帰ってきてたの?」
「とりあえず、それはこっちのセリフだ。
 あと、そっから離れろ、今すぐ離れろ」
「無理無理。手、掴まれちゃった」
「なっ…!」
唸りそうな顔で睨みつけられたと思ったら、目を見開いて驚く。こんなにころころ表情が変わる弟を見るのは久しぶりだ。
小さいころ、ものすごくからかいがいのあった時期ほどとは言わないが、ここ数年では一番表情豊かに見える。
それを見ていると、ついちょっかいを出したくて仕方がなくなってしまう。

繋がれた手はこのままにして、久しぶりに困ってる弟の姿でも眺めようか。
彼のことをそれとなく聞いてみるのもいいかもしれない。
少しだけ可哀想ではあるが、疲れてここへ帰ってきた私の気晴らしくらいにはなって欲しい。
私はここへ来たとき、自分の居場所がどこにもなくなってしまったような不安を感じたのだから。


それでも、少しだけ悔しかったから、あの時彼が幸せそうに微笑んだことだけは内緒にすることにした。

***

実家帰ったときのあの居場所のなさは異常って思うのは私だけでしょうか。
いや、なんていうか。出迎えてもらえないとかそういうんでなくて。
ふと「あー、ここは私の家なんだけども、ここに私は住んでないんだな」って思うんですよね。
だから1人暮らししてからは、なんだか実家帰っても落ち着きません。ちょっと寂しい。


犬飼姉登場。
いろいろ設定考えてるけど、どこまでオリキャラ絡めていいのか分からないでいるので、名前は出さずに少し様子見。
ちなみに普段は東京方面で彼氏と同棲しつつヘアスタイリストとして働いている設定です。弟より6歳上。

書きたいネタはたくさんあるのに、うまく言葉にできない。
少しずつ形にしていこうと思います。

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