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淫猥なビデオとキミへの愛と

※少し下世話な表現があるので注意





年は暮れ行き、新年も目前。
ボクは、というかボクの家は、例年どおり忙しない毎日を送っていた。
この時期は振袖や紋付袴がよく売れる。
いつもの仕事に加えてそれの受け取りや注文、更にはそれらの仕立て直しで、この時期はいつになく店が賑わっているのだ。
もちろん、両親や祖父母はこの時期仕事だけでてんてこ舞いで、家のことにまで手が回らない。
でも、家族にはまだ幼い子供だっている。
そこでボクの出番、というわけだ。



「…と、こんなもんっすかね」
買い物かごの中身を確認して、満足げに一人ごちる。
この時期、主に家族のご飯支度をするのはボクだった。
家全体の負担を減らすために、大体の家事はボクや任せられそうな弟妹に振り分けられている。
もっとも、ボクは一番年上なので、みんなより余計にあれこれ任されてしまっているが。
きっちり予算内に納めた材料を買い物袋に詰め、いそいそとスーパーを出た。
最近は日が暮れるのが本当に早くなった。まだ夕方になったばかりだというのに、周囲はすでに薄暗い。
さて、家に着いたらまず買った肉の下ごしらえをしよう。
お米は下の兄弟に頼んで研いだものを水に浸してもらっているはずだから、そのまま炊飯のボタンを押して。
で、煮物にする野菜を食べやすい大きさに切って…あ、そうだ、いくつかは弁当用に取り分けなくちゃ。
……もし、明日お弁当を作っていったら、彼は食べてくれるかな。

そんなことをとりとめもなく考えていると、ふとこの辺で見かけるには珍しい人物に出くわした。

「…猿野くん?」
「ん?
 おー、ネズッチューじゃん!」
ボクの声に気がついた彼は、ぶんぶんと手を降ってこっちに近づいてきた。
肩に下げているやや膨らんだトートバッグや格好を見る限り、どうやら家に帰る途中だったようだ。
「ん、なになに、おつかいかぁ?
 高校生にもなって感心だねぇ。さてはつり銭で漫画本でも買おうって魂胆だろ?」
「しないっすよそんなこと!
 今の時期はみんな忙しいから、代わりにご飯支度してるだけっす」
「っかー、真面目っつーかなんつーか…」
「放っといてくださいっす」
呆れたように言う彼を尻目に、自分の家の方角へ足を進める。
彼も同じ方角に進んでいたから、それを見るとまた足を動かし、ボクと並んだ。
「そういえば、猿野くんは何してたんすか?」
そう尋ねると、彼の動きがゆっくり止まった。
不審に思いそちらを見ると、顔を俯けてあごに手を添えながら、しばらくぶつくさと何かを呟いていた。
そして、バッと勢いよく顔をあげたあと、こちらを見たままうんうんと何か納得するように頷いて、つかつかと近づいてきてがっしり肩を掴まれた。


…嫌な予感がする。すごく。いや、とんでもなく。


「やぁ少年。毎日真面目ぶってると肩凝るだろう」
「これが素なんすけど」
「ちょっとくらいハメを外したいと思うだろう」
「むしろハメ外すの苦手なんすけど」
「そんなテメーにいいものを貸してやろう。
 さっき沢松仙人から貸していただいたありがたーいものだ」
そう言いながら、彼は茶封筒に入った何かを強引に買い物袋に突っ込む。
「って勝手に何入れて…!?」
慌ててそれを取り出そうと袋の中を漁る。
又貸しは気が引けるとかそういうことでなくて、わざわざ見えなくしている何かに嫌な予感しかしない。
少しニヤニヤした猿野くんの顔が、その予感を更に色濃いものにした。
「見りゃ分かるって。
 男たるもの、これが苦手なやつなんてあのバカ犬くらいなもんだろ」
その一言が耳に飛び込むと同時に、手に取った茶封筒の中身が、たまたま近くにあった街灯の仄かな明かりで少しだけ透けて見えた。



その中のしなやかな硬さを持った箱には、明らかに、あられもない姿の女の人が見えた。



これが何なのかなんて野暮な質問だ。そんなのボクにだって分かる。
ただ、それには今まで興味がなくて、そして対峙した今もボクには必要のないと思うものだった。
それでもやっぱりどこか恥ずかしくて、顔に熱が集まっていく。
「…お返しします」
「なんでェ、せっかく親切で貸してやったのに」
「ありがた迷惑っすよ!」
半ば強引に押し返すと、つまらなさそうにわざとらしく舌打ちをして、渋々それをまたトートバッグにしまった。
それでも、すぐ何かひらめいたらしく「そっか」と呟いて、またニヤニヤとこちらを見る。
「犬っころがいるからこんなのいらねーってことか。
 やーね、ネズッチューったら見かけによらず…」
「何勝手に捏造してんすか!
 大体まだ…その、そんなこと、してるわけ…」
気恥ずかしさから、引きかけた顔の熱がまた集まり、声がどんどん小さくなっていくのが自分でも分かった。
自分で言っていて情けなくなり、自然と顔が俯いていく。
「…マジ?」
そんなに意外だったのだろうか。
先ほどまでのおちゃらけた声が、一気に真面目なものに変わった。
声を出して答える気がせず、そのままこくりと頷く。
「あいつと、そーゆーことしてぇって思んねーの?」
「…なんでっすか」
「好きなんだろ?」
確かに、犬飼くんのことは好きだ。
その気持ちに偽りはないし、誰よりも強いものだと胸を張って言える。
ただ、その決心がなかなかつかない。



付き合い始めてもう半年近いから、今まで「そんなこと」がなかったわけじゃない。
ただ、あの時は怖くなって、思わず拒絶してしまった。後にも先にもそんなことはそれっきりだ。
別にそういうことがしたくないわけじゃない。
現にどうしようもないときに、彼を思いながら自分で処理したことも数回あった。
それでも、まだ恐怖心のほうが勝ってしまっている。

恐怖に煽られて、こんなことしなくてもいいんじゃないか、とどこかで思う自分がいる。
もし、これが本当に愛を語る行為なら、先ほど強引に渡された箱の中に映っているだろう女の人は、愛を見せびらかして売り物にしていることになる。
ボクはそんな風に互いの気持ちが変質してしまうのが怖かった。
だから今が幸せなのだと、逃げるように思い込もうとしている。そんなの分かってるんだ。
そうでないのなら、もっと彼に触れてみたいなどという欲が出るわけがない。



押し黙ってしまったボクを見て、猿野くんはばつが悪そうにガシガシと頭を掻いた。
たぶん、言いたくないと捉えたのかも知れない。
本当はうまく説明できる言葉が見当たらないだけだけども。
頭を掻くのをやめた彼は、言葉を探しながら、ゆっくりと言う。
「まぁ、お前がしたいしたくないってのは勝手だけどさ。
 あんまり長い間おあずけしてっと、あいつも餌求めて逃げっかもしんねーぞ」
そうかもしれない。
きっと、あの時からずっと、彼は待っていてくれているのだ。
そして、あの時からずっと、彼はボクを求めている。
空腹に耐え切れず逃げ出すくらいならいっそ、その前に飼い主の手でも齧って、餌皿にまで引きずって行けばいいのに。
「…そうなる前に噛みついてくれないっすかね」
「無理無理、あいつヘタレな上に忠犬だからな。
 ご主人様に嫌われることは意地でもしねーって」
「ご主人様って…」
「おっと、オレこっちだから。じゃーな」
歩いているうちに分かれ道にまで来ていたらしい。
からからと笑って、彼は軽く手を上げて別れようとした。
でも、言われてばかりで少しだけ悔しかったので、その背に大きめの声で投げかける。
「猿野くんにだって、そういうことしたい人、いるんじゃないすか」
彼は少しだけ目を見開いてこっちを振り返ったが、少しだけ困ったような、それでも幸せそうな笑顔になって答えた。
「オレの天使様にゃあ、畏れ多くて触れらんねーよ」



あの分かれ道から家へは程なくして着いた。
早速台所へ向かい、炊飯器のスイッチを入れてから買い物袋を開けると、そこから見覚えのある茶封筒が見えた。
いつの間に…、とまたその袋の中身に頭を抱えつつ、他の兄弟の目に触れても困るので自分の部屋の机の上に投げ出した。
学校に持っていくのも憚られる。一体どうするのが賢明なのだろう。
考えても考えても答えは出そうになかったので、一度それを横に置いて、とりあえずケータイを取り出した。
電話帳から愛しい人の連絡先を呼び出し、数コール後に大好きな声が聞こえた。
「あ、犬飼くん。
 明日お弁当作っていったら食べるっすか?」

まだ、その決断には時間がかかるだろうけど、それまで何もしないわけじゃない。
それに代わるやり方で、ゆっくり気持ちを伝えていこう。

全然足りないかもしれないけど、今ボクにできる精一杯を、キミに。

***

話の構想自体は2月の時点からありました。
構想段階では3つの短編集の真ん中あたりを想定していましたが、バラバラになって今に至るわけです。
なんていうか、犬子短編自体が同じ時間軸になっていくので、くっつけても仕方がないと悟ったみたいです。
そもそも3つのうち2つに性的表現が絡まるからうまくいかn…ゲホゲホ。


なかなかうまくぼかすやり方が思いつかず、伸ばしまくってこんなことに。
あと猿野がなかなかに別人のような気が…。
それと季節外れなのは気のせいです。気のせいなんです。

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