※エロくないですが事後注意




僕らは限りなく同一でありながら、それでもまったく別の生き物だ。
求めて止まないその訳を、誰でもない、ただ1人の君へと祈る。
望めるのならば、どうか。



情事の気だるさが残る体を、少しだけ動かす。
向かい合った端整な顔はあの美しい琥珀の瞳を隠し、浅い呼吸を定期的に繰り返す。
無理もないだろう。まだ外は暗い。
彼の向こうにあるカーテンの隙間からは、淡い人工の光しか覗かない。
きっとボクも、しばらくしたらまた眠りに落ちるのだろう。
暗く濁ったように、それでも鋭く輝く銀髪に指を絡めると、くすぐったそうに少しだけ身じろぎをする。
それを愛おしく思いながら、絡めた指を離した。
この僅かな行為にここまで満たされたのだから、以って瞑すべしだ。ボクは再び瞼を閉じた。


キミとボクは似ている。そう言ったならキミは笑うだろうか。
ボクらは面白いくらいに正反対だ。
平均より身長が低いボク。周りより少し飛びぬけてるキミ。
ボクは人より少し肌が白いが、キミのは褐色で普通より色黒だ。
しかし、そんな外見の対極さとは裏腹に、根本的なところは本当によく似ていると思う。

話さなくても伝わりそうだ。そんなことを言われた事がある。
キミはよく言葉を飲み込む。
それをわざと不機嫌を装って咎めると、「言い表せる気がしない」という一言が慈しむような口付けと共に返された。
きっとそれは、ボクが触れるのをためらってしまう代わりに、たくさんの思いを言葉にしているように。
キミは言い切れない感情の代わりにたくさんボクに触れるものだから、それがなんとなく伝わってしまう。
そのくらい、ボクらの伝えたいことは互いに変わらない。
表現の仕方こそ違うものの、ボクらは1つに対して同じ気持ちを抱く。
それでも1人じゃ完全になりきれないから、ボクはキミを心の底から欲していた。

きっと、2人合わせればボクらは人並みになれたのだろう。
しかしながら、ボクらはこうしてそれぞれが1人の人間として生まれてきてしまった。
でも、これで良かったのだ。
もし、2人で1つだったのなら、こうして満たされたいとすら思えなかった。
1人のヒトとして完結するより、不完全な2人として存在していることがどれだけ幸せか。

ボクは不完全なヒトとして、キミの傍にいられることを幸運に思う。






僕らは限りなく同一でありながら、それでもまったく別の生き物だ。
渇き満たされぬその訳を、他でもない、ただ1人の君へと願う。
伝うならば、どうか。



目元を掠る淡く柔らかな日差しが、徐々に意識を覚醒させる。
覗き見えた空は、まだ日が昇ったばかりなのか色素が薄い。
外を窺うために少しだけ捻った首を元に戻せば、普段よりあどけない寝顔が映る。
少々無理をさせただろうか。それともまだ起き出すには早い時間なのか。
時刻を確認しようにも、この心地よい場所から抜け出す気はしなかった。
ただ空ろに流れていく時間さえ、ひどく暖かい。
頬にかかった明るめの黒髪を横に流しながらそんなことを思う。


オレとお前は似通っているようでそうでもない。そう言ったならお前は怒るだろうか。
オレたちは根本的な部分が良く似ている。
同じポジションでいることを望んだオレたち。
互いを想い合う気持ちさえ、限りなく同一に近い。
しかし、互いの本質が似ている場所にあるだけで、何から何まで同位している訳ではないのだ。

触れるのをためらう瞬間がある。直接言われたわけではないが、そんなことを感じた。
お前はよく、唐突に伸ばしかけた手を押さえつける。
そして、遠慮がちにオレの手を包んで、「キミが好き」と惜しげもなく言うのだ。
きっとそれは、オレが言い表せない感情の代わりに、その想いを込めてお前に触れるように。
お前は触れることをためらう代わりにその感情を言葉にするものだから、なんとなく違和感を覚えてしまうのだ。
そのくらい、オレたちの感情の伝え方は正反対だった。
オレもお前も不器用だと思う。せめて互いに半分ずつその術を持ち合わせていたなら、どんなに良かったか。
それでもこの不器用さゆえに、オレはお前を渇望していた。

きっと、2人合わせて初めてオレたちは人並みになれるのだろう。
しかしながら、オレたちはそれぞれが1人のヒトとして生まれてしまった。
でも、これで良かったのだ。
もし、2人で1つだったのなら、こうして誰かを深く愛することもなかっただろう。
1人のヒトとして存在するより、不器用な2人として出会えたことを好運に思う。

オレは不器用なヒトとして、お前と共にある仕合せに感謝する。





僕らは限りなく同一でありながら、それでもまったく別の生き物だ。
互いに馳せるその訳を、他でもない、ただ1人の君へと想う。
叶うのならば、どうかこの先共に歩めんことを。

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一度アイソトープを題材にお話かきたいって思った結果が こ れ だ よ ！ ！ ！
ちなみにアイソトープは同位体を指す言葉です。同じ性質を持ちながら、質量が異なる物質の関係。
ギリシャ語で「同じ場所」、英語としては「うりふたつ」といった意味もあるみたいです。

思いを馳せる内容は一緒でも考えてることは逆、って言うのを書きたかったのに…うおお…。

「幸せ」と「仕合せ」、「幸運」と「好運」。意味はほぼ同じなのですが少しだけ使い分けしました。
息抜きで作ってたはずなのにたくさん辞書引いたぜ…。