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I just renew my promise

「で、そろそろ説明して欲しいんすけど」
子津は納得いかない表情で口を開いた。



「…何を?」
「分からないとは言わせないっすよ?」
とぼけてみようとはしたが、想像以上に相手は不機嫌だったようだ。
発する言葉の節々に、いつもは感じられない棘のような響きがある。
まぁ、原因はこの状況にあるのは分かっているし、機嫌を損ねても仕方がないとも思うのだが。


事の起こりは昨日に遡る。
その日はオレの誕生日だった。
たくさんの人に祝福されるのを少し煙たく、それでもやはりくすぐったく思いながら享受していたその日、彼をここに誘ったのは間違いなく自分であった。
「そりゃあね、仮にも付き合ってる相手に誕生日翌日の休みが空いてるかどうか聞かれたら、当然期待しちゃいますよね」
まぁ、それはそうだろう。オレだって絶対期待する。
現に、誘った時のこいつの表情ときたら、それはもう幸せそうにやんわりとはにかんでいたのだ。
それを思い出したら、今まで何ともなかったはずの胸が罪悪感でじわじわと痛んできた。
「…悪い」
「そう思うなら答えてください」
そう言い、子津は斜め下からこちらを睨みつけた。
「何で、墓地になんか連れてきたんすか?」




寒くなってきたこの時期、彼岸でも何でもないこの日の敷地内は当然のように静まり返っていた。
当然、辺りにはオレたち以外誰もいやしない。その寂しい光景はやや薄気味悪くもある。
子津が機嫌を損ねるのも当たり前、というわけだ。
それでも、こいつをここに連れてきたかったのは。
「会ってもらいてぇ人がいるんだ」
いつものように手桶に水を汲みながら答えると、目の端に映っていた彼の体がわずかに跳ねた。
「…誰に?」
それは問いかけと言うよりも、曖昧な事柄を確認するような口調だった。
オレから話したことはなかったが、誰かからぼんやりと聞いていたのだろう。
きっと今からする話も、もしかしたらそのときに聞いてしまったかもしれない。
それでも、どうしても伝えたかったのだ。
「オレが十二支に来るきっかけになった人」



今までその人の話は誰にもしたことはなかった。
というのも、それはオレの中では最も触れられたくない事柄だったからだ。
元々事情を知っている辰以外にはその存在が暴かれないよう、口にも素振りにも見せないようにしていたほどだ。
きっと、県対抗選抜であの人の球を受けていたという人に出会わなければ、こうして話すこともなかったかもしれない。
例えそれが自分の愛している人だとしても、だ。
ただ、その事実は遠回しに彼を傷つけているような。そんな気がしたのだ。

「ここだ」
見慣れた墓の前で足を止める。
誰も訪れた様子のないそこは普段より寂しく映るが、生憎オレもそこに供えるものなど何一つ持ってこなかった。
少し後ろをついてきていた子津も、それに倣って止まった。
「…ひとつ聞いてもいいっすか?」
墓の方を見据えながら、彼が問いかけた。
「何だ?」
「なんで、ボクに教えてくれたんすか?」
「お前には知っといてほしかった」
話す決心をするのに、時間がかかってしまったけども。
心の中でそう続けて、いつもするように墓石へ水をかけた。
持っていた手桶を手渡すと、彼も同じように水をかけ、静かに手を合わせる。

会ったことのないこの人に、こいつは何を思うのだろう。
ぽつぽつと話した昔の話を、こいつはどう受け止めたんだろう。
もしかしたらいい迷惑だったかもしれない。ただの自己満足で終わってしまうかもしれない。
それでも、こいつには伝えておきたかったのだ。
それはひどく身勝手な理由なのだけども。



墓前で手を合わせた後、先に手桶を片付けておいてもらえないか頼んだ。
「いいっすけど、どうして?」
「ちょっとやることが残ってんだ」
それだけ言うと、彼は特に何も聞かずに頼みを引き受けてくれた。
もしかしたら、あの人のこともこうして話すまで待っていたのかもしれない。
そうだとするのなら、尚更そこで眠る人に聞いてほしいことがある。
一つ歳をとったからこそ、自分の中で区切りをつけたかったのだ。
「大神さん」
答えが返るはずもない人の名を呼ぶ。
あんたはそこにいないだろう。それでも、あんたに言いたいんだ。

友達が悪い道に染まりそうになったときは体を張って引き戻せ、とあんたは言った。
だが、あのときのオレはそれを中途半端に守って、結局本当に大事なことに気付けていなかった。
殴られようが腕をへし折られようが、そいつの手を掴める限りは、手を伸ばすことを諦めたらいけなかったんだ。
それは友人だけじゃなく、大事な誰かを守るための教えだとようやく気付けた。

聞いてくれよ。十二支に来て、大事なものがたくさんできたんだ。
はじめて傍にいてほしいやつに出会えたんだ。
だから、次はその手を伸ばすことをためらいはしない。
「約束する。今度は何があっても、絶対守ってみせるよ」
もう誰一人、傷つけるものか。




子津は手桶が置いてある場所で少し退屈そうに待っていた。
「終わったんすか?」
「まぁな。それよりまだ時間あるか?」
その言葉に彼は少しだけ目を見開いたが、すぐに表情が明るくなった。

少し前まで、その日は彼にとってなんでもない日だったに違いない。
オレにとっても自分が生まれた日であるということ以外、何ら意味などなかった日だった。
誕生日なんて誰かに追い回されるだけの散々な日だと思っていたが、こうしてこいつも共に喜んでくれるなら悪くないと思えてしまうのだ。

日が沈むまでもう少し。
デートをやり直すには時間がたりないかもしれないが、もう少しだけ傍にいたい。
できることなら、これからもずっとこうしていられたなら。


誰にも聞こえなかった誓いをひっそりと反駁する。
守ってやるんだ。今度こそ。

***

大スランプです。たいへんです。
忙しさにかまけてたツケがこれだよ!orz

ネタ自体は去年からあって、実はどっちかというとマンガ向きのネタだった(昨年の犬誕手ブロでやりそこねた云々がこれ)んですが、ネタが発酵していて大変よろしくない。
い、いいもんiPad買ったからこれでさくさく作業してやる…ぐぬぬ……。



なんかうまくまとめらんなかったけど、犬飼くんお誕生日おめでとう!
こんなんでごめんね愛してるからね!
だから早く結婚してくれ、子津くんと。

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