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5年後の誓い

相変わらず、嵐のような男だ。
数年ぶりに見た変わらない姿に、苦笑とともに軽く息を吐いた。



「いやー、まさか開いてるゲートがまだあったなんてな。
 誰かに知らせなきゃなんねーって思って出たら、日本じゃなくてこっちでさ。
 お前んちの近くでホッとしたぜ」
よほど喉が渇いていたのだろうか、差し出した水を一気に飲み干してから彼はまくし立てた。
マイペースなところも変わっていない。いや、むしろ悪化したのではないだろうか。
「で、どうだった?」
「父さんが元DATSの連中にかけあってくれるってさ」
「どのくらいで封鎖されるんだ?」
「長くて2日。ま、明日中にはほぼ終わるだろ」
カラカラと笑うその姿は、さもそこが閉じるのは当たり前だと思っていたようで、少しだけ違和感を覚えた。
僕らは隔たった二つの世界を少しでも近づけたかったはずなのに。
そして、それを誰より望んでいたのは、この目の前の男のはずなのだ。
「それが終わる前に戻るのか」
「当然。まだやることが残ってんだよ、いろいろ」
そう言って笑う顔は、昔と少しも変わらなかった。



彼が向こうの世界に旅立ってからちょうど5年になる。
その間に僕らの世界は大きく変わってしまった。
デジモンたちを見送った僕たちは普通の暮らしに戻り、彼らと離れることを惜しんだこの男はこの日まであの広い世界を渡り歩いていたのだと言う。
「しかし、お前、この数年でノーベル賞なんて取ってたのかよ。やっぱ天才は違うな」
「そっちこそ、向こうで5年も生き延びていたとは驚きだよ」
皮肉で返したつもりだったが、得意げに胸を張られてしまって少しだけ悔しい。
しかし、彼が早々にくたばるはずもないと思っていたのは事実であった。
だからこそ、彼の父もためらわずに向こうへ行くことを許したのだろう。
というよりも、その人もまたデジタルワールドを10年近く放浪していたというのだから、やはり子は親に似てしまうのだろうか。

こうして久々に再開した仲間の顔を見ると、ふとそこにはいない顔を思い出す。
「…ガオモンは…皆は、元気にしてるのか?」
「滅多に会いに行けねーけどな、前に会った時はぼちぼちやってたよ」
「そう、か」
彼と共に去った相棒は、どうやらうまくやっているようだ。
またいつ会えるか分からないが、それでももうすぐ会いに行けたらと願う。
しかし、まだそこまで準備が整ったわけではないが。


人間とデジモン、相互に負ってしまった傷はいまだに癒えていない。
僕らの世界には、まだ5年前の事件を忘れられず、世界を滅ぼしかけたあの存在を嫌悪している者も多くいる。
それを話せば「そんなんこっちだって同じだったろ」とあっけらかんと返された。
あちらの世界に足を踏み入れて、理由なく乱していったのも、また僕らと同じ人間だったのだ。
それは昔、僕らも痛感したことだった。
「それでも、最近はずいぶん分かってもらえるよ」
遠くを見るような目をしながらポツリと彼は言った。
この5年の間、向こうで何があったのかは彼しか知らない。
それなのに、彼は柄にも合わずぽつぽつとしかそのことを話そうとしない。
きっと豪快に土産話を担ぎこんで、語りきれないほどの話をしていくのだろうと、何の根拠もなくそう思っていたのだが、どうやら的外れだったようだ。
話せない何かか、語る言葉を持たない何か。
それが彼の旅には多かったのだろう。
もっとも、彼は言語の語らいより拳での語らいの方が好きだというのも、理由の一つではあるのかも知れない。



僕の屋敷から少し離れた繁華街に出た。
シャワーついでにせっかくだから洗濯がしたいと自分の服を勝手に洗濯機に突っ込んだ彼は、そのまま強引に僕の服を借りて付いてきた。
どうやら体を動かしていないと気が済まないらしい。
「…家族には会わないのか?」
僕があの屋敷から少し遠のこうとしたのはそのためだった。
今なら直接会わずとも、テレビ電話だとか、間接的に会って話せるものならいくらでもある。
それは彼が旅立つ少し前からあったものだから、彼がそれを知らないわけがない。
「いいよ、今はまだ」
「今は?」
反駁すれば、何も言わずに頷くだけだ。
やはり少しだけ面白くない。というか、どこか調子が狂う。
記憶の中の彼はとても直情的で、まだ子供らしい部分が多かった。
今も目の前の見慣れないものに目移りしながら、落ち着きなく歩いている。
その姿も笑った顔もそのままだと言うのに、肝心なことは一向に黙ったままだ。


別に目的もなくふらふらと繁華街を抜け、また屋敷に向かって歩き出したときだった。
「ホントはさ、まだ帰ってくるつもりじゃなかったんだよなー」
ぽつり。
独り言のように彼はつぶやいた。
「次帰るときはあいつらと帰るって、勝手に決めてたからさ」
「…予定外のことが起こっただけだろう?」
「ま、それはそうなんだけど、やっぱ悔しくてさ」
少し後を歩く彼の顔を見る術は、ない。
振り返れば叶ってしまうのを知りながらも、それをしないでいるのは、やはりその声がどこか震えているような気がしたからだろうか。
悔しいという言葉は、自らの誓いが果たせなかったことだろうか。
それとも、この現状を憂う言葉なのか。
「なー、みんなで暮らせんのはいつになるんだろうな」
冗談めいたように投げかけられた言葉に、僕は彼が欲しいであろう明確な答えを持たなかった。




結局、彼はその翌日に荷物をまとめてデジタルワールドへと戻っていった。
本当に嵐のような男だと、使用人たちも、後に連絡を取った彼の父も苦笑していた。
やはり彼は昔と寸分も変わってなどいなかったのだろう。
そう思うと、この現状は予想していたとしても、彼にとって歯がゆいものだったに違いない。

子供の喧嘩なら、互いに謝って、それで済んでしまうだろう。
でもこれは、誰かが手を引いて導いていかなければならないのだ。
そして、それは彼の役目でもあり、こちらに残された僕らに与えられた役目でもある。


次に彼が戻ってくるときには、誓いが果たされていればいい。
そしてそれが遠くない未来であればいい。
自分の机に散らばる新しくも懐かしい資料を眺めながら、僕は決意を新たにする。

影ながら君の誓いを支えるよ。
遠くない未来、僕らが笑って再会する、そのときを叶えるために。

***

久々にこんな長い文書いた…orz
リハビリせなあかん、と思ってやっちまったのがこれだったりします。
なんでセイバかって……察して下さい。

5年経ったアニキは子供らしさも大人らしさも兼ね備えた無敵の存在になれると、僕は心から思っている次第です。

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