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  <subtitle type="html">明澄のポータルサイト</subtitle>
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  <updated>2009-02-17T00:22:21+09:00</updated>
  <author><name>明澄</name></author>
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    <id>prayrepray.blog.shinobi.jp://entry/99</id>
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    <published>2012-05-13T19:54:53+09:00</published> 
    <updated>2012-05-13T19:54:53+09:00</updated> 
    <category term="SS" label="SS" />
    <title>破天荒な料理人は美酒がお好き</title>
    <content mode="escaped" type="text/html" xml:lang="utf-8"> 
      <![CDATA[チャイムの音が響く。<br />
客人が来る予定はなかったはず、とインターホンを覗けば、見知った顔が小さめのビニール袋を片手にそこにいた。<br />
ため息を付き、開錠のボタンは押さず、そのまま受話器を手に取る<br />
「…悪いがお引取り願おうか」<br />
『えー、せっかく材料買ってきたのに』<br />
「君が食べたかっただけだろう？」<br />
『そうだけど、自分で食べたかっただけなら、こんな夜遅くに生バジルとモッツァレラ探す旅には出ねーよ』<br />
そんなことをこちらは頼んだ覚えはない。<br />
しかしそう続けようものなら、話が長くなるのは明白だ。<br />
言葉を吐きだす代わりに、受話器の向こう側にも聞こえるほど深々とため息をついた。<br />
「で、用件は」<br />
『お酒飲ませて』<br />
「却下」<br />
<br />
<br />
<br />
結局その後、今日買ってきたのは結構いいとこのチーズだっただの、奮発していい塩を手に入れてきただの、普段聞いているプレゼンより勇ましいだけのものを聞かされた挙句、観念して彼を招き入れるボタンを押してしまった。<br />
そのひどいプレゼンのとどめが「どうせ何も食ってないんだろ」という見透かされた一言でなければ、それまでの強気な態度を崩すことはなかっただろう。<br />
彼は変なところで勘が鋭く、こうして各学会用のレポートの締め切りたちに追われ、まともな食事を口にする時間も惜しくなってきた頃に「酒を飲ませろ」という名目でよく現れる。<br />
それが本当に彼なりのおせっかいなのか、実はそれが重なるのが偶然で、彼自身はワインセラーの中にあるものにしか興味がないのか、その真意はいまだに分からないのだが。<br />
<br />
<br />
再び家にチャイムの音が響き、観念して部屋への侵入を防ぐ扉の鍵も開けてしまうと、若干上機嫌な彼がずかずかと上がりこんできた。<br />
「相変わらず生活感のかけらもねーのな」<br />
リビングを抜け、カウンターキッチンに手荷物を置きながら、そんな感想を漏らす。<br />
そして勝手に冷蔵庫を開け、見事に何も入ってないその現状を嘆き始めた。<br />
「あのなぁ、何食って生きてたんだ？」<br />
「…霧か霞、と言えば納得してもらえるのかい？」<br />
「できるかアホ、余計心配だ」<br />
本当のところ、栄養調整食品やらコンビニで適当に買ったパンやおにぎり類なんかを、作業の合間に適当にかじっていたのだが、それもそれで何か言われるのだろう。<br />
彼はぐちぐちと小言を並べながら、買ってきた材料を袋から取り出していく。<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
ところで、彼は粗雑な人物であるが、柄に合わずそこそこ料理が作れる。<br />
作れるものは本人曰く「居酒屋のつまみ程度のものまで」だそうだが、初めてワインを振舞ったときに何か感銘を受けるものがあったのか、それ以降横文字の料理のレパートリーが増えているように思う。<br />
一体どこでそんなものを覚えてきているのか尋ねたところ、「別にどうだっていいだろ」の一点張りで、結局出所を掴むことはできなかった。<br />
それとなく彼の家族と話す機会に尋ねてみたが、そもそも彼の手料理は家族ですら滅多に食べられない代物らしい。<br />
<br />
<br />
すいすいと包丁を滑らせ、きれいに皿に盛りつけていくその人物は、僕の知る彼ではないのではないだろうかと錯覚さえ覚える。<br />
あっという間に輪切りにしてしまったトマトとモッツァレラチーズを交互に重ね、その間にバジルの葉を挟みこんでいく。<br />
色鮮やかになったそれを満足に見やり、一度冷蔵庫に入れると、先ほどの下準備をしている間茹でていたブロッコリーの湯を空け、それを水切りする。<br />
「フードプロセッサーどこだっけ？」<br />
「下の棚の奥」<br />
「あ、ホントだ。こんな便利なんだから使えよな」<br />
「はいはい」<br />
本当に分かっているのかと一瞥をやりながら、それでも作業の手を止めず、器の中にブロッコリーとアンチョビを入れ、オリーブオイルや黒胡椒を特に量らず入れ、スイッチを入れる。<br />
固形のものさえあったそれらはあっという間に混ざり合って、スプーンですくえる硬さに変わってしまった。<br />
スイッチを切って味を確認してから、彼は買ってきていたバケットを取り出して適当な大きさに切り、それを乗せていく。<br />
「できた。持ってって」<br />
ついでに酒も、と付け加えるのを忘れずに。<br />
<br />
<br />
<br />
しばらく使っていなかった食卓に、言われた通りに皿を運び、グラスや取り皿などを並べ終えた頃、彼は冷蔵庫で冷やしていたものにオリーブオイルや塩、黒胡椒、オレガノをちりばめて持ってきた。<br />
「今日何開けんの？」<br />
「白にしようかと思ってた」<br />
「上等、分かってんじゃん」<br />
魚を入れてきた時点で、今日飲みたかった物は決まっていたのだろう。<br />
やれやれ、とため息を付きながら、最近は手すら付けていなかったワインセラーを開く。<br />
そこにしまってあるものはそれなりに高価なもので、一般には流通しないというものも中にはあったりする。<br />
それを知っているからなのか、彼はここ以外でワインを飲むつもりはないと、以前上機嫌に話していたような気がする。<br />
ありがたい話なのか迷惑な話なのかは分からないが、代わりに彼の手料理という貴重な品を毎度振舞われているのだから、それはそれでいいのかと思い始めた自分が、どうも毒されているようで怖い。<br />
<br />
<br />
結局、その中でも香り高く、酸味もそれなりにあるものを選んで持っていった。<br />
グラスに注げば薄く輝く黄金色に、彼は満足気に笑ってみせる。<br />
「いやー、やっぱ白はいいよなー」<br />
「この前は赤最高とか言ってなかったか」<br />
「いいんだよ、どっちもうまいんだから」<br />
少しだけ機嫌を悪くした彼に構わず、自分のグラスを軽く掲げて見せると、それに倣って彼も自分のグラスを持ち上げる。<br />
それでも、その表情は不服そうであった。<br />
「別にやる必要ないんじゃない？」<br />
「でも、気分としては盛り上がるだろう？」<br />
「どーだか」<br />
行儀悪く背もたれに空いた腕を引っ掛けて寄りかかりながら、くるくると中の液体を回し、彼が答える。<br />
それでもグラスを下げなかった自分を見かねてか、仕方ないと言わんばかりの顔でグラスを近づける。<br />
「今日は何に？」<br />
その問いに少し考えてから「君のおいしい料理に」と冗談で口にしたら、「冗談でもやめろ」と真っ赤になって反対された。<br />
それがおかしくてくすりと笑うと、赤くなった顔をそのままにこちらをじろりと睨みつける。<br />
そういうのは逆効果だと、誰か彼に教えてあげたほうがいいと思う。<br />
もっとも、僕が見てる分には大層気分が良いので、自分から教えるつもりは毛頭ないのだが。<br />
「もうなんでもいいや、うまい飯だろーが酒だろーが！」<br />
「開き直ったのかい？」<br />
「誰のせいだ、このアホトンマ！」<br />
テーブルの下から普段より幾分か力がない、それでも普通のそれよりは痛い蹴りが飛んできた。<br />
これ以上からかうと拳が飛んでくるからやめよう。<br />
それでも抑え切れずにくつくつと溢れる笑みはどうしようもないものだから、勘弁して欲しい。<br />
<br />
<br />
<br />
少しだけ荒っぽく響いたグラスの音は、たった2人だけの遅すぎる晩酌の始まりを告げる。<br />
今日のこと、明日のこと、ワインのこと、料理のこと。<br />
他愛のない会話の中に、ちょっとした駆け引きを忍ばせて、それを楽しむのも悪くない。<br />
そう思いながら、美しく輝く黄金色に口をつけた。<br /><a href="http://prayrepray.blog.shinobi.jp/ss/%E7%A0%B4%E5%A4%A9%E8%8D%92%E3%81%AA%E6%96%99%E7%90%86%E4%BA%BA%E3%81%AF%E7%BE%8E%E9%85%92%E3%81%8C%E3%81%8A%E5%A5%BD%E3%81%8D" target="_blank">あとがき</a>]]> 
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    <author>
            <name>明澄</name>
        </author>
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    <id>prayrepray.blog.shinobi.jp://entry/98</id>
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    <published>2012-03-12T21:59:01+09:00</published> 
    <updated>2012-03-12T21:59:01+09:00</updated> 
    <category term="SS" label="SS" />
    <title>5年後の誓い</title>
    <content mode="escaped" type="text/html" xml:lang="utf-8"> 
      <![CDATA[相変わらず、嵐のような男だ。<br />
数年ぶりに見た変わらない姿に、苦笑とともに軽く息を吐いた。<br />
<br />
<br />
<br />
「いやー、まさか開いてるゲートがまだあったなんてな。<br />
　誰かに知らせなきゃなんねーって思って出たら、日本じゃなくてこっちでさ。<br />
　お前んちの近くでホッとしたぜ」<br />
よほど喉が渇いていたのだろうか、差し出した水を一気に飲み干してから彼はまくし立てた。<br />
マイペースなところも変わっていない。いや、むしろ悪化したのではないだろうか。<br />
「で、どうだった？」<br />
「父さんが元DATSの連中にかけあってくれるってさ」<br />
「どのくらいで封鎖されるんだ？」<br />
「長くて2日。ま、明日中にはほぼ終わるだろ」<br />
カラカラと笑うその姿は、さもそこが閉じるのは当たり前だと思っていたようで、少しだけ違和感を覚えた。<br />
僕らは隔たった二つの世界を少しでも近づけたかったはずなのに。<br />
そして、それを誰より望んでいたのは、この目の前の男のはずなのだ。<br />
「それが終わる前に戻るのか」<br />
「当然。まだやることが残ってんだよ、いろいろ」<br />
そう言って笑う顔は、昔と少しも変わらなかった。<br />
<br />
<br />
<br />
彼が向こうの世界に旅立ってからちょうど5年になる。<br />
その間に僕らの世界は大きく変わってしまった。<br />
デジモンたちを見送った僕たちは普通の暮らしに戻り、彼らと離れることを惜しんだこの男はこの日まであの広い世界を渡り歩いていたのだと言う。<br />
「しかし、お前、この数年でノーベル賞なんて取ってたのかよ。やっぱ天才は違うな」<br />
「そっちこそ、向こうで5年も生き延びていたとは驚きだよ」<br />
皮肉で返したつもりだったが、得意げに胸を張られてしまって少しだけ悔しい。<br />
しかし、彼が早々にくたばるはずもないと思っていたのは事実であった。<br />
だからこそ、彼の父もためらわずに向こうへ行くことを許したのだろう。<br />
というよりも、その人もまたデジタルワールドを10年近く放浪していたというのだから、やはり子は親に似てしまうのだろうか。<br />
<br />
こうして久々に再開した仲間の顔を見ると、ふとそこにはいない顔を思い出す。<br />
「…ガオモンは…皆は、元気にしてるのか？」<br />
「滅多に会いに行けねーけどな、前に会った時はぼちぼちやってたよ」<br />
「そう、か」<br />
彼と共に去った相棒は、どうやらうまくやっているようだ。<br />
またいつ会えるか分からないが、それでももうすぐ会いに行けたらと願う。<br />
しかし、まだそこまで準備が整ったわけではないが。<br />
<br />
<br />
人間とデジモン、相互に負ってしまった傷はいまだに癒えていない。<br />
僕らの世界には、まだ5年前の事件を忘れられず、世界を滅ぼしかけたあの存在を嫌悪している者も多くいる。<br />
それを話せば「そんなんこっちだって同じだったろ」とあっけらかんと返された。<br />
あちらの世界に足を踏み入れて、理由なく乱していったのも、また僕らと同じ人間だったのだ。<br />
それは昔、僕らも痛感したことだった。<br />
「それでも、最近はずいぶん分かってもらえるよ」<br />
遠くを見るような目をしながらポツリと彼は言った。<br />
この5年の間、向こうで何があったのかは彼しか知らない。<br />
それなのに、彼は柄にも合わずぽつぽつとしかそのことを話そうとしない。<br />
きっと豪快に土産話を担ぎこんで、語りきれないほどの話をしていくのだろうと、何の根拠もなくそう思っていたのだが、どうやら的外れだったようだ。<br />
話せない何かか、語る言葉を持たない何か。<br />
それが彼の旅には多かったのだろう。<br />
もっとも、彼は言語の語らいより拳での語らいの方が好きだというのも、理由の一つではあるのかも知れない。<br />
<br />
<br />
<br />
僕の屋敷から少し離れた繁華街に出た。<br />
シャワーついでにせっかくだから洗濯がしたいと自分の服を勝手に洗濯機に突っ込んだ彼は、そのまま強引に僕の服を借りて付いてきた。<br />
どうやら体を動かしていないと気が済まないらしい。<br />
「…家族には会わないのか？」<br />
僕があの屋敷から少し遠のこうとしたのはそのためだった。<br />
今なら直接会わずとも、テレビ電話だとか、間接的に会って話せるものならいくらでもある。<br />
それは彼が旅立つ少し前からあったものだから、彼がそれを知らないわけがない。<br />
「いいよ、今はまだ」<br />
「今は？」<br />
反駁すれば、何も言わずに頷くだけだ。<br />
やはり少しだけ面白くない。というか、どこか調子が狂う。<br />
記憶の中の彼はとても直情的で、まだ子供らしい部分が多かった。<br />
今も目の前の見慣れないものに目移りしながら、落ち着きなく歩いている。<br />
その姿も笑った顔もそのままだと言うのに、肝心なことは一向に黙ったままだ。<br />
<br />
<br />
別に目的もなくふらふらと繁華街を抜け、また屋敷に向かって歩き出したときだった。<br />
「ホントはさ、まだ帰ってくるつもりじゃなかったんだよなー」<br />
ぽつり。<br />
独り言のように彼はつぶやいた。<br />
「次帰るときはあいつらと帰るって、勝手に決めてたからさ」<br />
「…予定外のことが起こっただけだろう？」<br />
「ま、それはそうなんだけど、やっぱ悔しくてさ」<br />
少し後を歩く彼の顔を見る術は、ない。<br />
振り返れば叶ってしまうのを知りながらも、それをしないでいるのは、やはりその声がどこか震えているような気がしたからだろうか。<br />
悔しいという言葉は、自らの誓いが果たせなかったことだろうか。<br />
それとも、この現状を憂う言葉なのか。<br />
「なー、みんなで暮らせんのはいつになるんだろうな」<br />
冗談めいたように投げかけられた言葉に、僕は彼が欲しいであろう明確な答えを持たなかった。<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
結局、彼はその翌日に荷物をまとめてデジタルワールドへと戻っていった。<br />
本当に嵐のような男だと、使用人たちも、後に連絡を取った彼の父も苦笑していた。<br />
やはり彼は昔と寸分も変わってなどいなかったのだろう。<br />
そう思うと、この現状は予想していたとしても、彼にとって歯がゆいものだったに違いない。<br />
<br />
子供の喧嘩なら、互いに謝って、それで済んでしまうだろう。<br />
でもこれは、誰かが手を引いて導いていかなければならないのだ。<br />
そして、それは彼の役目でもあり、こちらに残された僕らに与えられた役目でもある。<br />
<br />
<br />
次に彼が戻ってくるときには、誓いが果たされていればいい。<br />
そしてそれが遠くない未来であればいい。<br />
自分の机に散らばる新しくも懐かしい資料を眺めながら、僕は決意を新たにする。<br />
<br />
影ながら君の誓いを支えるよ。<br />
遠くない未来、僕らが笑って再会する、そのときを叶えるために。<br /><a href="http://prayrepray.blog.shinobi.jp/ss/5%E5%B9%B4%E5%BE%8C%E3%81%AE%E8%AA%93%E3%81%84" target="_blank">あとがき</a>]]> 
    </content>
    <author>
            <name>明澄</name>
        </author>
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    <id>prayrepray.blog.shinobi.jp://entry/97</id>
    <link rel="alternate" type="text/html" href="http://prayrepray.blog.shinobi.jp/mf-ss/i%20just%20renew%20my%20promise" />
    <published>2011-11-03T22:20:51+09:00</published> 
    <updated>2011-11-03T22:20:51+09:00</updated> 
    <category term="MF/SS" label="MF/SS" />
    <title>I just renew my promise</title>
    <content mode="escaped" type="text/html" xml:lang="utf-8"> 
      <![CDATA[「で、そろそろ説明して欲しいんすけど」<br />
子津は納得いかない表情で口を開いた。<br />
<br />
<br />
<br />
「…何を？」<br />
「分からないとは言わせないっすよ？」<br />
とぼけてみようとはしたが、想像以上に相手は不機嫌だったようだ。<br />
発する言葉の節々に、いつもは感じられない棘のような響きがある。<br />
まぁ、原因はこの状況にあるのは分かっているし、機嫌を損ねても仕方がないとも思うのだが。<br />
<br />
<br />
事の起こりは昨日に遡る。<br />
その日はオレの誕生日だった。<br />
たくさんの人に祝福されるのを少し煙たく、それでもやはりくすぐったく思いながら享受していたその日、彼をここに誘ったのは間違いなく自分であった。<br />
「そりゃあね、仮にも付き合ってる相手に誕生日翌日の休みが空いてるかどうか聞かれたら、当然期待しちゃいますよね」<br />
まぁ、それはそうだろう。オレだって絶対期待する。<br />
現に、誘った時のこいつの表情ときたら、それはもう幸せそうにやんわりとはにかんでいたのだ。<br />
それを思い出したら、今まで何ともなかったはずの胸が罪悪感でじわじわと痛んできた。<br />
「…悪い」<br />
「そう思うなら答えてください」<br />
そう言い、子津は斜め下からこちらを睨みつけた。<br />
「何で、墓地になんか連れてきたんすか？」<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
寒くなってきたこの時期、彼岸でも何でもないこの日の敷地内は当然のように静まり返っていた。<br />
当然、辺りにはオレたち以外誰もいやしない。その寂しい光景はやや薄気味悪くもある。<br />
子津が機嫌を損ねるのも当たり前、というわけだ。<br />
それでも、こいつをここに連れてきたかったのは。<br />
「会ってもらいてぇ人がいるんだ」<br />
いつものように手桶に水を汲みながら答えると、目の端に映っていた彼の体がわずかに跳ねた。<br />
「…誰に？」<br />
それは問いかけと言うよりも、曖昧な事柄を確認するような口調だった。<br />
オレから話したことはなかったが、誰かからぼんやりと聞いていたのだろう。<br />
きっと今からする話も、もしかしたらそのときに聞いてしまったかもしれない。<br />
それでも、どうしても伝えたかったのだ。<br />
「オレが十二支に来るきっかけになった人」<br />
<br />
<br />
<br />
今までその人の話は誰にもしたことはなかった。<br />
というのも、それはオレの中では最も触れられたくない事柄だったからだ。<br />
元々事情を知っている辰以外にはその存在が暴かれないよう、口にも素振りにも見せないようにしていたほどだ。<br />
きっと、県対抗選抜であの人の球を受けていたという人に出会わなければ、こうして話すこともなかったかもしれない。<br />
例えそれが自分の愛している人だとしても、だ。<br />
ただ、その事実は遠回しに彼を傷つけているような。そんな気がしたのだ。<br />
<br />
「ここだ」<br />
見慣れた墓の前で足を止める。<br />
誰も訪れた様子のないそこは普段より寂しく映るが、生憎オレもそこに供えるものなど何一つ持ってこなかった。<br />
少し後ろをついてきていた子津も、それに倣って止まった。<br />
「…ひとつ聞いてもいいっすか？」<br />
墓の方を見据えながら、彼が問いかけた。<br />
「何だ？」<br />
「なんで、ボクに教えてくれたんすか？」<br />
「お前には知っといてほしかった」<br />
話す決心をするのに、時間がかかってしまったけども。<br />
心の中でそう続けて、いつもするように墓石へ水をかけた。<br />
持っていた手桶を手渡すと、彼も同じように水をかけ、静かに手を合わせる。<br />
<br />
会ったことのないこの人に、こいつは何を思うのだろう。<br />
ぽつぽつと話した昔の話を、こいつはどう受け止めたんだろう。<br />
もしかしたらいい迷惑だったかもしれない。ただの自己満足で終わってしまうかもしれない。<br />
それでも、こいつには伝えておきたかったのだ。<br />
それはひどく身勝手な理由なのだけども。<br />
<br />
<br />
<br />
墓前で手を合わせた後、先に手桶を片付けておいてもらえないか頼んだ。<br />
「いいっすけど、どうして？」<br />
「ちょっとやることが残ってんだ」<br />
それだけ言うと、彼は特に何も聞かずに頼みを引き受けてくれた。<br />
もしかしたら、あの人のこともこうして話すまで待っていたのかもしれない。<br />
そうだとするのなら、尚更そこで眠る人に聞いてほしいことがある。<br />
一つ歳をとったからこそ、自分の中で区切りをつけたかったのだ。<br />
「大神さん」<br />
答えが返るはずもない人の名を呼ぶ。<br />
あんたはそこにいないだろう。それでも、あんたに言いたいんだ。<br />
<br />
友達が悪い道に染まりそうになったときは体を張って引き戻せ、とあんたは言った。<br />
だが、あのときのオレはそれを中途半端に守って、結局本当に大事なことに気付けていなかった。<br />
殴られようが腕をへし折られようが、そいつの手を掴める限りは、手を伸ばすことを諦めたらいけなかったんだ。<br />
それは友人だけじゃなく、大事な誰かを守るための教えだとようやく気付けた。<br />
<br />
聞いてくれよ。十二支に来て、大事なものがたくさんできたんだ。<br />
はじめて傍にいてほしいやつに出会えたんだ。<br />
だから、次はその手を伸ばすことをためらいはしない。<br />
「約束する。今度は何があっても、絶対守ってみせるよ」<br />
もう誰一人、傷つけるものか。<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
子津は手桶が置いてある場所で少し退屈そうに待っていた。<br />
「終わったんすか？」<br />
「まぁな。それよりまだ時間あるか？」<br />
その言葉に彼は少しだけ目を見開いたが、すぐに表情が明るくなった。<br />
<br />
少し前まで、その日は彼にとってなんでもない日だったに違いない。<br />
オレにとっても自分が生まれた日であるということ以外、何ら意味などなかった日だった。<br />
誕生日なんて誰かに追い回されるだけの散々な日だと思っていたが、こうしてこいつも共に喜んでくれるなら悪くないと思えてしまうのだ。<br />
<br />
日が沈むまでもう少し。<br />
デートをやり直すには時間がたりないかもしれないが、もう少しだけ傍にいたい。<br />
できることなら、これからもずっとこうしていられたなら。<br />
<br />
<br />
誰にも聞こえなかった誓いをひっそりと反駁する。<br />
守ってやるんだ。今度こそ。<br /><a href="http://prayrepray.blog.shinobi.jp/mf-ss/i%20just%20renew%20my%20promise" target="_blank">あとがき</a>]]> 
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    <author>
            <name>明澄</name>
        </author>
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    <id>prayrepray.blog.shinobi.jp://entry/96</id>
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    <published>2011-10-31T21:40:46+09:00</published> 
    <updated>2011-10-31T21:40:46+09:00</updated> 
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    <title>Trick or Treat!</title>
    <content mode="escaped" type="text/html" xml:lang="utf-8"> 
      <![CDATA[<a href="//prayrepray.blog.shinobi.jp/File/fcd9d79d.jpg" target="_blank"><img src="//prayrepray.blog.shinobi.jp/Img/1320064577/" border="0" alt="" /></a><br />
お菓子も悪戯も、どっちもほしいよ！<br /><a href="http://prayrepray.blog.shinobi.jp/%E3%82%A4%E3%83%A9%E3%82%B9%E3%83%88/trick%20or%20treat-" target="_blank">小言</a>]]> 
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    <author>
            <name>明澄</name>
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    <published>2011-07-31T13:30:03+09:00</published> 
    <updated>2011-07-31T13:30:03+09:00</updated> 
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    <title>目を覚まして 欲しいな</title>
    <content mode="escaped" type="text/html" xml:lang="utf-8"> 
      <![CDATA[<a href="//prayrepray.blog.shinobi.jp/File/f3ff12a3.jpg" target="_blank"><img src="//prayrepray.blog.shinobi.jp/Img/1312085904/" border="0" alt="あいまいえれじぃ" /></a><br />
今さら1人は耐えられないよ。<br /><a href="http://prayrepray.blog.shinobi.jp/%E3%82%A4%E3%83%A9%E3%82%B9%E3%83%88/%E7%9B%AE%E3%82%92%E8%A6%9A%E3%81%BE%E3%81%97%E3%81%A6%20%E6%AC%B2%E3%81%97%E3%81%84%E3%81%AA" target="_blank">小言</a>]]> 
    </content>
    <author>
            <name>明澄</name>
        </author>
  </entry>
  <entry>
    <id>prayrepray.blog.shinobi.jp://entry/94</id>
    <link rel="alternate" type="text/html" href="http://prayrepray.blog.shinobi.jp/mf-ss/%E3%82%A2%E3%82%A4%E3%82%BD%E3%83%88%E3%83%BC%E3%83%97" />
    <published>2011-07-28T01:30:37+09:00</published> 
    <updated>2011-07-28T01:30:37+09:00</updated> 
    <category term="MF/SS" label="MF/SS" />
    <title>アイソトープ</title>
    <content mode="escaped" type="text/html" xml:lang="utf-8"> 
      <![CDATA[<font color="#FF0000"><b>※エロくないですが事後注意</b></font><br />
<br />
<br />
<br />
<br />
僕らは限りなく同一でありながら、それでもまったく別の生き物だ。<br />
求めて止まないその訳を、誰でもない、ただ1人の君へと祈る。<br />
望めるのならば、どうか。<br />
<br />
<br />
<br />
情事の気だるさが残る体を、少しだけ動かす。<br />
向かい合った端整な顔はあの美しい琥珀の瞳を隠し、浅い呼吸を定期的に繰り返す。<br />
無理もないだろう。まだ外は暗い。<br />
彼の向こうにあるカーテンの隙間からは、淡い人工の光しか覗かない。<br />
きっとボクも、しばらくしたらまた眠りに落ちるのだろう。<br />
暗く濁ったように、それでも鋭く輝く銀髪に指を絡めると、くすぐったそうに少しだけ身じろぎをする。<br />
それを愛おしく思いながら、絡めた指を離した。<br />
この僅かな行為にここまで満たされたのだから、以って瞑すべしだ。ボクは再び瞼を閉じた。<br />
<br />
<br />
キミとボクは似ている。そう言ったならキミは笑うだろうか。<br />
ボクらは面白いくらいに正反対だ。<br />
平均より身長が低いボク。周りより少し飛びぬけてるキミ。<br />
ボクは人より少し肌が白いが、キミのは褐色で普通より色黒だ。<br />
しかし、そんな外見の対極さとは裏腹に、根本的なところは本当によく似ていると思う。<br />
<br />
話さなくても伝わりそうだ。そんなことを言われた事がある。<br />
キミはよく言葉を飲み込む。<br />
それをわざと不機嫌を装って咎めると、「言い表せる気がしない」という一言が慈しむような口付けと共に返された。<br />
きっとそれは、ボクが触れるのをためらってしまう代わりに、たくさんの思いを言葉にしているように。<br />
キミは言い切れない感情の代わりにたくさんボクに触れるものだから、それがなんとなく伝わってしまう。<br />
そのくらい、ボクらの伝えたいことは互いに変わらない。<br />
表現の仕方こそ違うものの、ボクらは1つに対して同じ気持ちを抱く。<br />
それでも1人じゃ完全になりきれないから、ボクはキミを心の底から欲していた。<br />
<br />
きっと、2人合わせればボクらは人並みになれたのだろう。<br />
しかしながら、ボクらはこうしてそれぞれが1人の人間として生まれてきてしまった。<br />
でも、これで良かったのだ。<br />
もし、2人で1つだったのなら、こうして満たされたいとすら思えなかった。<br />
1人のヒトとして完結するより、不完全な2人として存在していることがどれだけ幸せか。<br />
<br />
ボクは不完全なヒトとして、キミの傍にいられることを幸運に思う。<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
僕らは限りなく同一でありながら、それでもまったく別の生き物だ。<br />
渇き満たされぬその訳を、他でもない、ただ1人の君へと願う。<br />
伝うならば、どうか。<br />
<br />
<br />
<br />
目元を掠る淡く柔らかな日差しが、徐々に意識を覚醒させる。<br />
覗き見えた空は、まだ日が昇ったばかりなのか色素が薄い。<br />
外を窺うために少しだけ捻った首を元に戻せば、普段よりあどけない寝顔が映る。<br />
少々無理をさせただろうか。それともまだ起き出すには早い時間なのか。<br />
時刻を確認しようにも、この心地よい場所から抜け出す気はしなかった。<br />
ただ空ろに流れていく時間さえ、ひどく暖かい。<br />
頬にかかった明るめの黒髪を横に流しながらそんなことを思う。<br />
<br />
<br />
オレとお前は似通っているようでそうでもない。そう言ったならお前は怒るだろうか。<br />
オレたちは根本的な部分が良く似ている。<br />
同じポジションでいることを望んだオレたち。<br />
互いを想い合う気持ちさえ、限りなく同一に近い。<br />
しかし、互いの本質が似ている場所にあるだけで、何から何まで同位している訳ではないのだ。<br />
<br />
触れるのをためらう瞬間がある。直接言われたわけではないが、そんなことを感じた。<br />
お前はよく、唐突に伸ばしかけた手を押さえつける。<br />
そして、遠慮がちにオレの手を包んで、「キミが好き」と惜しげもなく言うのだ。<br />
きっとそれは、オレが言い表せない感情の代わりに、その想いを込めてお前に触れるように。<br />
お前は触れることをためらう代わりにその感情を言葉にするものだから、なんとなく違和感を覚えてしまうのだ。<br />
そのくらい、オレたちの感情の伝え方は正反対だった。<br />
オレもお前も不器用だと思う。せめて互いに半分ずつその術を持ち合わせていたなら、どんなに良かったか。<br />
それでもこの不器用さゆえに、オレはお前を渇望していた。<br />
<br />
きっと、2人合わせて初めてオレたちは人並みになれるのだろう。<br />
しかしながら、オレたちはそれぞれが1人のヒトとして生まれてしまった。<br />
でも、これで良かったのだ。<br />
もし、2人で1つだったのなら、こうして誰かを深く愛することもなかっただろう。<br />
1人のヒトとして存在するより、不器用な2人として出会えたことを好運に思う。<br />
<br />
オレは不器用なヒトとして、お前と共にある仕合せに感謝する。<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
僕らは限りなく同一でありながら、それでもまったく別の生き物だ。<br />
互いに馳せるその訳を、他でもない、ただ1人の君へと想う。<br />
叶うのならば、どうかこの先共に歩めんことを。<br /><a href="http://prayrepray.blog.shinobi.jp/mf-ss/%E3%82%A2%E3%82%A4%E3%82%BD%E3%83%88%E3%83%BC%E3%83%97" target="_blank">あとがき</a>]]> 
    </content>
    <author>
            <name>明澄</name>
        </author>
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    <id>prayrepray.blog.shinobi.jp://entry/93</id>
    <link rel="alternate" type="text/html" href="http://prayrepray.blog.shinobi.jp/%E3%82%A4%E3%83%A9%E3%82%B9%E3%83%88/%E7%85%8E%E3%81%98%E3%81%99%E3%81%8E%E3%81%9F%E5%87%BA%E6%B6%B8%E3%82%89%E3%81%97%E3%83%8D%E3%82%BF" />
    <published>2011-07-18T01:06:20+09:00</published> 
    <updated>2011-07-18T01:06:20+09:00</updated> 
    <category term="イラスト" label="イラスト" />
    <title>煎じすぎた出涸らしネタ</title>
    <content mode="escaped" type="text/html" xml:lang="utf-8"> 
      <![CDATA[<a href="//prayrepray.blog.shinobi.jp/File/mf_st04.jpg" target="_blank"><img src="//prayrepray.blog.shinobi.jp/Img/1310918588/" border="0" alt="犬飼がこのセリフを言ったときからこのネタは始まっていた" /></a><br />
【ツッコミ例】「お前意味分かってねーだろ」「おいエロ犬いい加減にしろ」「このネタ9年前に見たわー」etc...<br /><a href="http://prayrepray.blog.shinobi.jp/%E3%82%A4%E3%83%A9%E3%82%B9%E3%83%88/%E7%85%8E%E3%81%98%E3%81%99%E3%81%8E%E3%81%9F%E5%87%BA%E6%B6%B8%E3%82%89%E3%81%97%E3%83%8D%E3%82%BF" target="_blank">小言</a>]]> 
    </content>
    <author>
            <name>明澄</name>
        </author>
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    <id>prayrepray.blog.shinobi.jp://entry/92</id>
    <link rel="alternate" type="text/html" href="http://prayrepray.blog.shinobi.jp/mf-ss/%E3%81%AA%E3%81%84%E3%82%82%E3%81%AE%E3%81%AD%E3%81%A0%E3%82%8A%E3%81%AE%E6%81%8B" />
    <published>2011-06-22T02:21:03+09:00</published> 
    <updated>2011-06-22T02:21:03+09:00</updated> 
    <category term="MF/SS" label="MF/SS" />
    <title>ないものねだりの恋</title>
    <content mode="escaped" type="text/html" xml:lang="utf-8"> 
      <![CDATA[それに気がついたのは、熱気冷めやらぬあの夏がようやく鳴りを潜めた頃。<br />
でも、ボクはそれに気付かぬふりをした。<br />
<br />
<br />
<br />
長いようであっという間だった甲子園予選と県対抗選抜が終わり、3年生も引退してからしばらく経つ。<br />
秋季大会に向けての練習を終え、グラウンドの後片付けをし終えたボクらは帰り支度を始める。<br />
ボクらは大体いつも6人で帰るのが当たり前になっていて、その日もそうなるものだと思っていた。<br />
ぶらぶら歩きながら他愛もない話をして、途中で何か食べたり飲んだりしながら、ゆっくり家路につくのだと。<br />
そのときまで、信じて疑わなかった。<br />
<br />
あの人の着替えがいつになく早い。<br />
いつもなら誰かをからかいながらだらだらと帰り支度をして、みんなより少し遅くにようやくそれが終わるくらいなのに。<br />
「んじゃ、悪ぃけど今日は先に帰るわ」<br />
そう言っていそいそと荷物を肩にかけながら、部室の出口へと向かって行った。<br />
別れの挨拶を言い切る前に、荒々しくドアが閉まる。<br />
「やっぱりさー、絶対そうだよね、シバくん」<br />
兎丸くんは何か察しがついたのか、ニヤニヤしながら近くにいた司馬くんに話しかける。<br />
その笑い方は、どことなく噂好きの少女のそれに近い。<br />
ボクもそのことには気がついていたが、認めたくない部分が大きくて、まだはっきりとそれを言葉として聞いていない。<br />
だから正直、やばいと思った。<br />
話しかけられた本人は少しだけ首を傾げた。どうやら彼には心当たりがないようだ。<br />
相手の様子が芳しくないせいか、兎丸くんは先ほどの笑顔を曇らせ、少し拗ねたような表情になった。<br />
そしてつまらなさそうに続ける。<br />
「えー、何がって？<br />
　だからさー、兄ちゃんが…」<br />
「ボ、ボク今日はちょっと早く帰らないと…。<br />
　お先に失礼するっす！」<br />
誰に言うでもなく早口気味にそう言い訳して、慌ててその場を離れた。<br />
少しだけ走ってから、さっきの声はまるで悲鳴のようだったなと自嘲した。<br />
<br />
<br />
<br />
「そのこと」―――、猿野くんと鳥居さんが付き合い始めたこと。<br />
県対抗選抜が終わってから、彼らの距離感は以前より近くなっていた。<br />
予選の頃の様子を思うと、遅かれ早かれいつかはこうなっていたのかもしれない。<br />
彼女は少なくともあの人に惹かれていたように見えたし、あの人ももちろん彼女に惹かれていた。<br />
それを思うと胸は締め付けられたが、そんな日は来ないだろうと、何故か心のどこかで楽観していた。<br />
足掻けばいつか彼の傍にいけると、がむしゃらに信じていたのだ。<br />
<br />
そんないつ来るか分からないときを想うほど、ボクはあの人に惹かれていた。<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
次の日、なんとなく部活をサボった。<br />
散々真面目くんと揶揄されたボクがサボりだなんて大快挙だ、と小さく鼻で笑う。<br />
しかし、だからといっていつもより早い時間に帰って家族にあれこれ聞かれるのも面倒で、暗くなるまで屋上に隠れていることにした。<br />
入り口からは陰になった、扉のために作られた壁に体を委ねて、ぼんやり空を眺める。<br />
吹奏楽部のトランペットの音、運動部の喧騒、調子の外れた低い掛け声。<br />
すべては耳に届くのに、ボクの周りは少し強い風が通り過ぎていくばかりで、どこか別の世界にいるようだった。<br />
…本当にそうだとしたなら、どれだけ救われるか。<br />
<br />
そう思ったときだった。<br />
<br />
「おい」<br />
唐突にかけられた声と、今まで見上げていた空を塞ぐ影。<br />
犬飼くんだった。<br />
「何してんだ」<br />
「こっちのセリフっすよ、さっきランニングの声してたっすよ」<br />
「別に」<br />
そう言って、彼はボクの隣に腰を下ろす。<br />
彼もサボりだろうか。次期エースがこんな気分屋でどうするのだろう。<br />
もっとも、それは今に始まった懸念ではないし、彼以外にその役割を全うできる選手も見当たらないのだが。<br />
<br />
<br />
それからボクらはしばらく、お互い何も言わずにそこに座っていた。<br />
ボクは相変わらず流れる雲を眺めながら、何を思うわけでもなくぼんやりとしていた。<br />
「なぁ」<br />
不意に声がかかった。<br />
ボクは返事をする代わりにそちらを見やる。<br />
「好きなんだろ、バカ猿のこと」<br />
少しだけ、肩が動く。彼を見ていた目も見開いてしまったかも知れない。<br />
ごまかすには手遅れかもしれないが、まっすぐ見てくる彼の視線から逃れるように顔を戻し、呟いた。<br />
「べ、別に、そんなこと」<br />
「嘘だ。いつも見てる」<br />
きっぱりとした否定に返す言葉がない。<br />
それほどまでに態度に出てしまっていただろうか。<br />
人の変化に疎そうな彼に気付かれる程度だ、もしかしたら他の人にも気付かれているのかもしれない。<br />
そう思ったら、体中からサッと血の気が引いた。<br />
「もしかして、みんな気付いて…？」<br />
「大丈夫だ、他は誰も気付いちゃいねえ。<br />
　それより、お前も知ってんだろ。あのこと」<br />
知られていないことには安堵したが、また痛いことを聞かれた。<br />
何が、ととぼけて聞くのはあまりにも野暮だ。<br />
「……ええ」<br />
ボクはかさついた喉から絞り出すように声を出した。<br />
認めてしまうのは辛いが、誰かの口から直接聞くよりはましだから仕方がない。<br />
無意識に、きゅ、と唇を軽く噛む。<br />
「なら」<br />
その声は、いつも話す声と変わらない。<br />
何気ない話をするかのように、彼は続けた。<br />
<br />
<br />
<br />
「早く忘れてくれよ、そんな気持ち」<br />
<br />
<br />
<br />
一瞬、何を言われたのか理解ができなかった。<br />
弾け飛ぶように顔をもう一度彼の方へ向けると、大きな手に顎を持ち上げられた。<br />
「な」<br />
突然のことに抗議しようと開いた唇を、彼のそれが塞ぐ。<br />
力いっぱい彼を突き飛ばそうにも、バランスを崩した体を支える片腕のせいで、それも満足に叶わない。<br />
悔しさで涙が滲む。<br />
先ほどの言葉と合わせて、その行為はボクのすべてを侮辱されたようだった。<br />
<br />
重ね合わせただけのそれは、ほんの数秒で開放された。<br />
その瞬間、ボクは間髪いれずに空いていた腕で、思い切り彼の頬を引っ叩いた。<br />
溜め込んだ涙がボロボロこぼれてきて、好都合なことにあっという間に彼の顔なんて霞んでまともに見えなくなった。<br />
「なんで、あいつなんだよ」<br />
ポロリとこぼれた言葉は、さっきのような声だったか。それとも。<br />
どっちにしろ、今のボクにはすべて無機質にしか聞こえない。<br />
その問いに答えることもせず、ボクはただその場を離れたくて、ひたすら走った。<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
忘れろと言われて忘れられるくらいなら、とっくに忘れている。<br />
ボクだって苦しいのは嫌だ。できることならどこかに投げ捨ててしまいたい。<br />
ただ、それはもっと辛くて苦しい。たったそれだけの話。<br />
だから、ずっと「もしかしたら」「きっと」と呟き続けて、事実を信じないようにしている。<br />
馬鹿みたいな話だが、今はこうして苦しいのをごまかすくらいしか思いつかないのだ。<br />
そうしてしまえば、今以上にあの人のことを想ってしまうというのに。<br />
<br />
<br />
<br />
＊＊＊<br />
<br />
<br />
<br />
それからしばらくして、決定的な場面に出くわした。<br />
昨日、監督がガス抜きと称した久々の休日。<br />
散髪と買い物を兼ねて街に出かけると、遠巻きにあの人の姿が見えた。<br />
何をしているのだろう。思わず声をかけようとしたとき。<br />
<br />
彼女が、傍に駆け寄ってきた。<br />
<br />
待ち合わせでもしていたのだろう。彼女は謝るように頭を下げていて、あの人はその姿に少しだけ慌てふためいていた。<br />
それでも、どこか幸せそうで。<br />
そこから先は見たくなくて目を逸らしたので、どうなったのか分からない。<br />
<br />
<br />
<br />
「なんつー顔してんだ」<br />
放課後、誰もいない教室で一人机に突っ伏していたら、いきなりそんなことを言われた。<br />
「…そこから顔なんて見えるわけないじゃないすか」<br />
「大体分かる」<br />
「じゃあ放っといてほしいっす」<br />
あの日からボクは極力彼を避けていたのに、いつしか彼は強引にボクの傍にいるようになった。<br />
話しかけられてもこうやって突っぱねたことしか言わないのに、彼は気付かないふりをして普通に話しかけてくる。<br />
今だってそうだ。放っておいてほしいと言っているのに、そこから動く気がない。<br />
「何なんすか。いやがらせっすか」<br />
「別に。放っておけないだけだ」<br />
「それが嫌だって言ってるんすよ！」<br />
伏せていた顔を持ち上げて、彼を睨みつけながら叫ぶ。<br />
ボクがこんなに拒絶しているのに、彼は優しさを与えることをやめない。<br />
それがじくじくとボクの傷口を広げているのに。<br />
「自分でも馬鹿なことしてるって自覚くらいあるんすよ！<br />
　忘れられないからずっとホントのことに気付かないふりして、自分を騙して、勝手に傷ついて！<br />
　それなのに、何でそうやって慰めようとするんすか！？」<br />
本当は、もう少しの覚悟さえあれば、ボクは簡単に事実を受け止めてしまえるだろう。<br />
でも、そうやって優しくされてしまうから、ボクはそれに甘えて、また自分を騙そうとする。<br />
それがどれだけ残酷なのか、彼は知っているのだろうか。<br />
<br />
ボクの机を挟んで座っていた彼は、僕に向ける視線を逸らさなかったが、何も答えなかった。<br />
しかし、しばらくしてから、はぁ、と軽く息を吐き出して、いつもの調子で言った。<br />
「お前が好きだから。それしか思いつかない」<br />
単純明快な答えだった。だからこそ納得いかなかった。<br />
納得したくなんてなかった。<br />
「お前があいつの世話あれこれ焼いてたのと一緒だ。<br />
　オレだって、お前の力にも支えにもなれなくても、その真似事くらいしたい」<br />
なんて自分勝手な答えなのだろう。<br />
しかし、当然批判なんてできないそれを憎らしく思う。<br />
このまっすぐに向けられた好意に、ボクは傷つけられている。<br />
<br />
<br />
<br />
本当なら、この思いはたくさんの時間をかけて、ボク一人の中で思い出として昇華されていくはずだった。<br />
女々しく一人で泣きじゃくりながら、誰にも気付かれずに折り合いを付けるつもりでいた。<br />
あの人を好きになって、いつかはそうしないといけないと覚悟をしていたはずなのに。<br />
ボクはとても弱いから、縋りつけるものにはどうしても手を伸ばさずにはいられない。<br />
それはこれまでの日常、自分についてきた嘘、目の前の彼、それらすべて。<br />
振り解きたくてもできないそれらは、確実にボクを蝕む。<br />
<br />
<br />
<br />
この恋は散った今でも、ボクに甘い餌を振りまいて、心の中に居座ろうとするのだ。<br />
<br />
<br />
<br />
気がつくと、ボクはあんなに必死に振り払っていたはずの彼の優しさに縋りついていた。<br />
「好きなんすよ、今でも、本当に」<br />
「…ああ」<br />
「だけど、…諦められ、ないし…っ、嫌われたく、ない」<br />
「…そうだな」<br />
相槌を打ちながら、宥めるように優しく頭を叩く手が酷く心地よかった。<br />
それに呼応するように、今まで塞き止めていた気持ちが溢れて止められなくなっていた。<br />
<br />
ボクは今、とても酷いことをしている。<br />
きっと、今は無理だとしても、何ヶ月、いや何年とかけて、いつかボクはこの気持ちを思い出に変えようとするだろう。<br />
しかし、そのすべてを終わらせても、ボクはこの優しい彼を愛することはないと思う。<br />
それなのに、彼の優しさにどうしても手を伸ばしてしまって、こうして淡く期待を持たせてしまっている。<br />
それに彼が苦しめられることを、ボクは嫌というほど知っているのに。<br />
本当なら、そんな苦しい思いをさせる前に、ボクは彼から離れるべきなのに。<br />
<br />
いっそ、この恋であの人ではなく彼を好きになれていたなら、どれだけ幸せだっただろう。<br />
<br />
<br />
<br />
塞き止めていたものが溢れ返った後、すい、と頬へ彼の手が触れた。<br />
それは顎へと滑り落ち、やんわりと添えられる。<br />
それを撥ね退けなかったのは、卑怯なボクのエゴだ。<br />
<br />
また重なった唇からは、塩辛い味が少しだけした。<br /><a href="http://prayrepray.blog.shinobi.jp/mf-ss/%E3%81%AA%E3%81%84%E3%82%82%E3%81%AE%E3%81%AD%E3%81%A0%E3%82%8A%E3%81%AE%E6%81%8B" target="_blank">あとがき</a>]]> 
    </content>
    <author>
            <name>明澄</name>
        </author>
  </entry>
  <entry>
    <id>prayrepray.blog.shinobi.jp://entry/91</id>
    <link rel="alternate" type="text/html" href="http://prayrepray.blog.shinobi.jp/mf-ss/%E6%B7%AB%E7%8C%A5%E3%81%AA%E3%83%93%E3%83%87%E3%82%AA%E3%81%A8%E3%82%AD%E3%83%9F%E3%81%B8%E3%81%AE%E6%84%9B%E3%81%A8" />
    <published>2011-06-14T02:52:53+09:00</published> 
    <updated>2011-06-14T02:52:53+09:00</updated> 
    <category term="MF/SS" label="MF/SS" />
    <title>淫猥なビデオとキミへの愛と</title>
    <content mode="escaped" type="text/html" xml:lang="utf-8"> 
      <![CDATA[<font color="#FF0000"><b>※少し下世話な表現があるので注意</b></font><br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
年は暮れ行き、新年も目前。<br />
ボクは、というかボクの家は、例年どおり忙しない毎日を送っていた。<br />
この時期は振袖や紋付袴がよく売れる。<br />
いつもの仕事に加えてそれの受け取りや注文、更にはそれらの仕立て直しで、この時期はいつになく店が賑わっているのだ。<br />
もちろん、両親や祖父母はこの時期仕事だけでてんてこ舞いで、家のことにまで手が回らない。<br />
でも、家族にはまだ幼い子供だっている。<br />
そこでボクの出番、というわけだ。<br />
<br />
<br />
<br />
「…と、こんなもんっすかね」<br />
買い物かごの中身を確認して、満足げに一人ごちる。<br />
この時期、主に家族のご飯支度をするのはボクだった。<br />
家全体の負担を減らすために、大体の家事はボクや任せられそうな弟妹に振り分けられている。<br />
もっとも、ボクは一番年上なので、みんなより余計にあれこれ任されてしまっているが。<br />
きっちり予算内に納めた材料を買い物袋に詰め、いそいそとスーパーを出た。<br />
最近は日が暮れるのが本当に早くなった。まだ夕方になったばかりだというのに、周囲はすでに薄暗い。<br />
さて、家に着いたらまず買った肉の下ごしらえをしよう。<br />
お米は下の兄弟に頼んで研いだものを水に浸してもらっているはずだから、そのまま炊飯のボタンを押して。<br />
で、煮物にする野菜を食べやすい大きさに切って…あ、そうだ、いくつかは弁当用に取り分けなくちゃ。<br />
……もし、明日お弁当を作っていったら、彼は食べてくれるかな。<br />
<br />
そんなことをとりとめもなく考えていると、ふとこの辺で見かけるには珍しい人物に出くわした。<br />
<br />
「…猿野くん？」<br />
「ん？<br />
　おー、ネズッチューじゃん！」<br />
ボクの声に気がついた彼は、ぶんぶんと手を降ってこっちに近づいてきた。<br />
肩に下げているやや膨らんだトートバッグや格好を見る限り、どうやら家に帰る途中だったようだ。<br />
「ん、なになに、おつかいかぁ？<br />
　高校生にもなって感心だねぇ。さてはつり銭で漫画本でも買おうって魂胆だろ？」<br />
「しないっすよそんなこと！<br />
　今の時期はみんな忙しいから、代わりにご飯支度してるだけっす」<br />
「っかー、真面目っつーかなんつーか…」<br />
「放っといてくださいっす」<br />
呆れたように言う彼を尻目に、自分の家の方角へ足を進める。<br />
彼も同じ方角に進んでいたから、それを見るとまた足を動かし、ボクと並んだ。<br />
「そういえば、猿野くんは何してたんすか？」<br />
そう尋ねると、彼の動きがゆっくり止まった。<br />
不審に思いそちらを見ると、顔を俯けてあごに手を添えながら、しばらくぶつくさと何かを呟いていた。<br />
そして、バッと勢いよく顔をあげたあと、こちらを見たままうんうんと何か納得するように頷いて、つかつかと近づいてきてがっしり肩を掴まれた。<br />
<br />
<br />
…嫌な予感がする。すごく。いや、とんでもなく。<br />
<br />
<br />
「やぁ少年。毎日真面目ぶってると肩凝るだろう」<br />
「これが素なんすけど」<br />
「ちょっとくらいハメを外したいと思うだろう」<br />
「むしろハメ外すの苦手なんすけど」<br />
「そんなテメーにいいものを貸してやろう。<br />
　さっき沢松仙人から貸していただいたありがたーいものだ」<br />
そう言いながら、彼は茶封筒に入った何かを強引に買い物袋に突っ込む。<br />
「って勝手に何入れて…！？」<br />
慌ててそれを取り出そうと袋の中を漁る。<br />
又貸しは気が引けるとかそういうことでなくて、わざわざ見えなくしている何かに嫌な予感しかしない。<br />
少しニヤニヤした猿野くんの顔が、その予感を更に色濃いものにした。<br />
「見りゃ分かるって。<br />
　男たるもの、これが苦手なやつなんてあのバカ犬くらいなもんだろ」<br />
その一言が耳に飛び込むと同時に、手に取った茶封筒の中身が、たまたま近くにあった街灯の仄かな明かりで少しだけ透けて見えた。<br />
<br />
<br />
<br />
その中のしなやかな硬さを持った箱には、明らかに、あられもない姿の女の人が見えた。<br />
<br />
<br />
<br />
これが何なのかなんて野暮な質問だ。そんなのボクにだって分かる。<br />
ただ、それには今まで興味がなくて、そして対峙した今もボクには必要のないと思うものだった。<br />
それでもやっぱりどこか恥ずかしくて、顔に熱が集まっていく。<br />
「…お返しします」<br />
「なんでェ、せっかく親切で貸してやったのに」<br />
「ありがた迷惑っすよ！」<br />
半ば強引に押し返すと、つまらなさそうにわざとらしく舌打ちをして、渋々それをまたトートバッグにしまった。<br />
それでも、すぐ何かひらめいたらしく「そっか」と呟いて、またニヤニヤとこちらを見る。<br />
「犬っころがいるからこんなのいらねーってことか。<br />
　やーね、ネズッチューったら見かけによらず…」<br />
「何勝手に捏造してんすか！<br />
　大体まだ…その、そんなこと、してるわけ…」<br />
気恥ずかしさから、引きかけた顔の熱がまた集まり、声がどんどん小さくなっていくのが自分でも分かった。<br />
自分で言っていて情けなくなり、自然と顔が俯いていく。<br />
「…マジ？」<br />
そんなに意外だったのだろうか。<br />
先ほどまでのおちゃらけた声が、一気に真面目なものに変わった。<br />
声を出して答える気がせず、そのままこくりと頷く。<br />
「あいつと、そーゆーことしてぇって思んねーの？」<br />
「…なんでっすか」<br />
「好きなんだろ？」<br />
確かに、犬飼くんのことは好きだ。<br />
その気持ちに偽りはないし、誰よりも強いものだと胸を張って言える。<br />
ただ、その決心がなかなかつかない。<br />
<br />
<br />
<br />
付き合い始めてもう半年近いから、今まで「そんなこと」がなかったわけじゃない。<br />
ただ、あの時は怖くなって、思わず拒絶してしまった。後にも先にもそんなことはそれっきりだ。<br />
別にそういうことがしたくないわけじゃない。<br />
現にどうしようもないときに、彼を思いながら自分で処理したことも数回あった。<br />
それでも、まだ恐怖心のほうが勝ってしまっている。<br />
<br />
恐怖に煽られて、こんなことしなくてもいいんじゃないか、とどこかで思う自分がいる。<br />
もし、これが本当に愛を語る行為なら、先ほど強引に渡された箱の中に映っているだろう女の人は、愛を見せびらかして売り物にしていることになる。<br />
ボクはそんな風に互いの気持ちが変質してしまうのが怖かった。<br />
だから今が幸せなのだと、逃げるように思い込もうとしている。そんなの分かってるんだ。<br />
そうでないのなら、もっと彼に触れてみたいなどという欲が出るわけがない。<br />
<br />
<br />
<br />
押し黙ってしまったボクを見て、猿野くんはばつが悪そうにガシガシと頭を掻いた。<br />
たぶん、言いたくないと捉えたのかも知れない。<br />
本当はうまく説明できる言葉が見当たらないだけだけども。<br />
頭を掻くのをやめた彼は、言葉を探しながら、ゆっくりと言う。<br />
「まぁ、お前がしたいしたくないってのは勝手だけどさ。<br />
　あんまり長い間おあずけしてっと、あいつも餌求めて逃げっかもしんねーぞ」<br />
そうかもしれない。<br />
きっと、あの時からずっと、彼は待っていてくれているのだ。<br />
そして、あの時からずっと、彼はボクを求めている。<br />
空腹に耐え切れず逃げ出すくらいならいっそ、その前に飼い主の手でも齧って、餌皿にまで引きずって行けばいいのに。<br />
「…そうなる前に噛みついてくれないっすかね」<br />
「無理無理、あいつヘタレな上に忠犬だからな。<br />
　ご主人様に嫌われることは意地でもしねーって」<br />
「ご主人様って…」<br />
「おっと、オレこっちだから。じゃーな」<br />
歩いているうちに分かれ道にまで来ていたらしい。<br />
からからと笑って、彼は軽く手を上げて別れようとした。<br />
でも、言われてばかりで少しだけ悔しかったので、その背に大きめの声で投げかける。<br />
「猿野くんにだって、そういうことしたい人、いるんじゃないすか」<br />
彼は少しだけ目を見開いてこっちを振り返ったが、少しだけ困ったような、それでも幸せそうな笑顔になって答えた。<br />
「オレの天使様にゃあ、畏れ多くて触れらんねーよ」<br />
<br />
<br />
<br />
あの分かれ道から家へは程なくして着いた。<br />
早速台所へ向かい、炊飯器のスイッチを入れてから買い物袋を開けると、そこから見覚えのある茶封筒が見えた。<br />
いつの間に…、とまたその袋の中身に頭を抱えつつ、他の兄弟の目に触れても困るので自分の部屋の机の上に投げ出した。<br />
学校に持っていくのも憚られる。一体どうするのが賢明なのだろう。<br />
考えても考えても答えは出そうになかったので、一度それを横に置いて、とりあえずケータイを取り出した。<br />
電話帳から愛しい人の連絡先を呼び出し、数コール後に大好きな声が聞こえた。<br />
「あ、犬飼くん。<br />
　明日お弁当作っていったら食べるっすか？」<br />
<br />
まだ、その決断には時間がかかるだろうけど、それまで何もしないわけじゃない。<br />
それに代わるやり方で、ゆっくり気持ちを伝えていこう。<br />
<br />
全然足りないかもしれないけど、今ボクにできる精一杯を、キミに。<br /><a href="http://prayrepray.blog.shinobi.jp/mf-ss/%E6%B7%AB%E7%8C%A5%E3%81%AA%E3%83%93%E3%83%87%E3%82%AA%E3%81%A8%E3%82%AD%E3%83%9F%E3%81%B8%E3%81%AE%E6%84%9B%E3%81%A8" target="_blank">あとがき</a>]]> 
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            <name>明澄</name>
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    <published>2011-06-02T02:54:01+09:00</published> 
    <updated>2011-06-02T02:54:01+09:00</updated> 
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    <title>私のいない家</title>
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      <![CDATA[<font size="1" color="#999999">※オリキャラ視点注意</font><br />
<br />
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久しぶりに実家に帰ると、そこには見慣れない少年がいた。<br />
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だいたい実家に帰るときは前もって連絡を入れているのだが、その日だけはそういう気分でもなかった。<br />
仕事もなかなかうまくいかないし、そのせいで恋人ともギクシャクしはじめて、そこから少しだけ離れたくなって。<br />
帰ろうと思えば遠くもないこの場所に、なんとなく戻ってみたのだけども。<br />
「ただいまー」<br />
鍵が開いてた我が家に入って言ってみたものの、家の中は驚くほど静寂に包まれていた。<br />
母は専業主婦だから、家にいないことなんて買い物と旅行のときぐらい。<br />
しかし、どちらにしろ鍵が開いているのは無用心すぎやしないだろうか。<br />
そこで次に思いつくのは弟なのだが、あのやたらでかい靴が玄関にないし、出迎えに来たのは愛犬一匹だけだった。<br />
まぁ、居たとしてもあいつは出迎えに来るどころか、嫌な顔してこっち見るだけでせいぜいだろうが。<br />
2人ともいない。しかし、家の鍵は開いている。<br />
どういうことなのだろうと首をかしげながらリビングに向かって、例の少年に出くわしたわけだ。<br />
<br />
<br />
<br />
彼はソファで寝ていた。<br />
寝ている姿勢からして、初めは背もたれに体を預けていたのだろうが、いつの間にか上半身は横になってしまったようだ。<br />
しかも、たぶん弟のだろうと思われるブランケットまでかけられている。<br />
出迎えから私の後ろをついてきた愛犬が、当然のように彼に近づいて、その足元で丸くなった。<br />
その光景は明らかに異質であるはずなのに、妙に馴染んでしまっているように感じた。<br />
なんていうか、今の私にはあまり面白い光景ではない。なんだか自分の唯一の居場所まで盗られてしまったような気がする。<br />
そんな子供染みたことを思いながら、愛犬を踏まないようにして彼の顔の近くまで移動して、まじまじとその顔を覗き込む。<br />
<br />
特別目立つ感じでもない、至って普通の少年だった。<br />
弟と違い、まだ歳相応の幼さが残る顔。その頬にはそばかすが散らばっていて、鼻筋と共に少し赤みを帯びているようだ。<br />
そして、少し下がった眉尻が、どことなく内気な印象を与える。<br />
質朴。それが彼の第一印象だった。<br />
しかし、彼はなぜここで眠っているのだろう。<br />
昔、弟が友達を連れて来たときでさえ、こんなことはなかったというのに。<br />
顔に似合わず厚顔無恥なところでもあるのだろうか。しかし、それならまず我の強い弟とそりが合わないような気がする。<br />
それなら、彼がここに馴染んでいるように、彼もここに親しみを持っているのだろうか。<br />
少なくても彼の知るそこに私はいないのだから、それはそれで複雑ではあるのだけども。<br />
<br />
<br />
なんとなく、髪の毛に触れてみる。<br />
少し明るめの、どちらかといえば男の人らしく硬質な髪だ。<br />
ただあまり気にしていないのか、無造作に切り揃えてもらっているようだった。<br />
少しだけもったいないと思ってから、逃げてきてるのに仕事のことから離れられない自分に自嘲する。<br />
そういうのすら考えたくないはずなんだけどなぁ、と思ったとき。<br />
<br />
ふと、目の前の彼が身じろぎした。<br />
<br />
起こしてしまったのだろうか。慌てて手を離し、少しだけ緊張して彼の様子を窺った。<br />
彼は少し唸ってから瞼を少しだけ持ち上げて、今にも眠りの世界に戻っていきそうな表情でこちらを見た。<br />
そして、慌てて離して少し浮いたままだった手に自分のそれを伸ばして、ゆるゆると握りしめたのだ。<br />
「へへ」<br />
とろりと微笑んで、彼はまた眠りの世界に戻っていった。<br />
<br />
<br />
<br />
きっと寝ぼけた彼は、肌の色や髪の色が似通った私を弟と見間違えたのだろう。<br />
何で手を繋いできたのかは分からない。<br />
彼と弟は本当に「友達」なのか、それも分からない。<br />
けれども、さっき見せた笑顔といったら、それはもう幸せそうだったのだ。<br />
<br />
<br />
<br />
振りほどけなかった右手と、そこから伝わる熱を感じながら、さてどうしようかと思考を切り替えたときだった。<br />
「げ」<br />
つい漏らしたような聞き慣れた声が聞こえた。<br />
入り口の方を見やると、思った通りそこにはコンビニの袋をぶら下げた弟が、案の定嫌そうな顔をして立っていた。<br />
「おかえり。ってかいつの間に帰ってきてたの？」<br />
「とりあえず、それはこっちのセリフだ。<br />
　あと、そっから離れろ、今すぐ離れろ」<br />
「無理無理。手、掴まれちゃった」<br />
「なっ…！」<br />
唸りそうな顔で睨みつけられたと思ったら、目を見開いて驚く。こんなにころころ表情が変わる弟を見るのは久しぶりだ。<br />
小さいころ、ものすごくからかいがいのあった時期ほどとは言わないが、ここ数年では一番表情豊かに見える。<br />
それを見ていると、ついちょっかいを出したくて仕方がなくなってしまう。<br />
<br />
繋がれた手はこのままにして、久しぶりに困ってる弟の姿でも眺めようか。<br />
彼のことをそれとなく聞いてみるのもいいかもしれない。<br />
少しだけ可哀想ではあるが、疲れてここへ帰ってきた私の気晴らしくらいにはなって欲しい。<br />
私はここへ来たとき、自分の居場所がどこにもなくなってしまったような不安を感じたのだから。<br />
<br />
<br />
それでも、少しだけ悔しかったから、あの時彼が幸せそうに微笑んだことだけは内緒にすることにした。<br /><a href="http://prayrepray.blog.shinobi.jp/mf-ss/%E7%A7%81%E3%81%AE%E3%81%84%E3%81%AA%E3%81%84%E5%AE%B6" target="_blank">あとがき</a>]]> 
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